夏の終わり。普段は訃報を扱うことが比較的少ない「日経ニュース プラス9」なのですが、京セラ創業者の稲盛和夫さんとゴルバチョフ元ソ連大統領の死去を連日でお伝えすることになりました。8月は三宅一生さん、森英恵さんとファッション界の巨匠も相次ぎ亡くなりました。「突然、柄にもないことを」とのお叱りを覚悟で今回は三宅さんとのささやかなご縁について書きます。
20年以上前、私の住まいの目の前にあった行きつけのレストラン。営業終了間際に滑り込み遅くまで飲み食いするのが常でした。ある晩、いつものように入ってみると雰囲気が違います。実は三宅さんもその店の常連で、閉店後に貸し切りで宴会とのこと。「そりゃ、ダメだね」。帰ろうとしたのですが優しい店主はカウンターの隅に私を通し、なんとかやり過ごす作戦に出ました......が、果たしてパーティーが始まってみると、黙々と独り食べ続ける私の存在は強烈な違和感を醸し出すばかり。気まずい雰囲気に席を立とうとした、その時でした。
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| 印象的な外観の「21_21 DESIGN SIGHT」 |
「これもせっかくのご縁ですから、ぜひご一緒に!」。一瞬で温かな雰囲気に包まれたのを覚えています。そしてあろうことか「スピーチしてください」。冷や汗をかき、しどろもどろになりながらも夢のようなひとときを過ごしました。ただただ、感激しました。財布などの雑貨を三宅さんのブランドに買い替え、長らく使っていました。最初はほんのご恩返しの気持ちでしたが、無関心だったデザインの奥深さに気付き、三宅さんが創立者となった東京・六本木の展示施設「21_21 DESIGN SIGHT」(トゥーワン・トゥーワン・デザインサイト)にも通うようになりました。
三宅さんは日経のインタビューで「我々デザイナーには物事をポジティブに考える、という特殊な才能があります。アーティストが時に死を表現するのに対し、デザイナーはどんな時も「生かす」ことから発想する人間です」と語っていました(2007年4月4日付夕刊)。あの晩、まったくの見ず知らず、目障りだったであろう私を宴会の参加者として「生かす」心遣い。いまになって思うのです。私のようなエピソードは、おそらく他にも無数にあったのだろうと。そして大勢の「イッセイ・ミヤケ」ファンを生み、デザインを通じ人々の暮らしや心に潤いを与えたに違いありません。
ろくにお礼も言えぬまま、お会いする機会は二度と訪れませんでした。先生、本当にありがとうございました。笑顔でゆっくり歩み寄りワインを注いでいただいた思い出は一生、忘れません。

日経ニュース プラス9 キャスター
岸本好正
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