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2017年3月3日(金)「サービスで対価もらう」発想乏しい日本 阿部奈美

 「チップの習慣がない日本では『サービスで対価をもらう』という発想が乏しいのでは?」。日本で暮らす外国人経営コンサルタントらと雑談をしていて、こんな指摘を受けることが最近よくあります。とりわけ宅配サービスについては思うところがある、と。


 荷物を届けたい時間帯が指定でき、不在なら再配達してもらえる。再配達時の時間帯も選べる。追加料金も不要。「日本のおもてなし、恐るべし!」と褒めながらも、皆一様に「なぜ追加料金をとらないの?」「日本にはチップの習慣がないから、サービスは無料と思い込んでいるのでは?」と首をかしげます。


 折しも、ヤマト運輸が宅配便の配達で、昼の時間帯指定の廃止を検討していることが明らかになりました。長時間労働につながる夜の時間帯指定なども見直しを検討しているそうです。


 もともと人手が不足しているところに、ネット通販の拡大などで宅配の荷受量が急増し、現場が疲弊。同社の労働組合が春闘で、今の人員体制では対応が難しくなると、会社側に荷受量の抑制を要求していました。最大手がこうした動きに出ることで、今後は物流全般のサービスのあり方が変わってくるかもしれません。


 気になるのは、こうした総量抑制には限界があり、問題の本質を解決するのは難しいという点です。独り暮らしや共働き世帯が増える中で、夜の時間帯指定サービスを廃止・縮小したとしても、競合他社に多くの利用者が流れたら、結局そのサービスを復活せざるを得なくなる可能性もあります。


 問題は、標準料金で受けられる必要最低限のサービスはここまで、ここからは追加料金が発生するオプションのサービスですよ、という明確な線引きがないこと。会社側と利用者側の双方が「サービスの対価」を再認識することが重要だと思います。


 同じ利用者でも、この時間帯しか荷物を受け取れないので高い料金を払ってでも利用したい時もあれば、急がないので最低限の標準サービスで十分という時もあります。エコノミー、ビジネス、ファーストクラスなどを選べる飛行機や、混合診療の歯医者のように、一定水準以上のものは、サービス内容やコスト、人員繰りの難しさなどに応じた料金設定にする。逆に、標準サービスは極力シンプルな内容にして安くする。標準サービスの利用者に特典ポイントを付与するといった試みも効果があるかもしれません。


 「サービスの対価」をちゃんと評価した料金体系に見直せば、利用者からも理解が得られるでしょうし、過剰なサービスの利用抑制にもなるはずです。物流業界にはIT(情報技術)やロボット、無人ヘリコプターなど先端技術も活用し、労働環境の改善とサービスの向上の両立に取り組んでいただきたいです。


 「おもてなし」という美しい言葉の響きに甘えて、会社側が従業員に曖昧な形で無償労働を強いるようなことは、あってはなりません。


日本経済新聞
編集局キャスター長
阿部奈美


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