やはり開票結果を見てみないと、分からないものですね。大接戦の末、アメリカ大統領選挙を制したのは共和党候補、ドナルド・トランプさんの方だったのですから。
終盤で猛追していたとはいえ、当選に必要な過半数の選挙人をトランプさんが獲得するのは正直、厳しいかなと思っていました。ところが開票が始まると、激戦州とされるオハイオ州やフロリダ州などを次々と制していくではありませんか。
民主党の地盤とされるペンシルベニア州やウィスコンシン州でも勝利。現地メディアはイギリスのEU(欧州連合)離脱を決めた時の衝撃を引き合いに出し、「Brexit(イギリスのEU離脱)よりもさらに激しい怒りと衝撃」などと報じました。
勝因はアメリカ国民が抱いている今の社会や政治への不満や怒り。オバマ政権下の7年半で1000万人に上る雇用が増えたものの、製造業に限ってみれば雇用減が続いています。中西部から太平洋岸中部地域あたりまでの一帯はかつて重工業などで栄えていたのですが、今では衰退し、「rust belt(さびれた地帯)」と呼ばれています。
トランプさんはこうした地域を頻繁に訪れ、白人の労働者層をターゲットにして、支持を訴える選挙戦を展開し続けました。生産拠点の海外シフトや低賃金の外国人雇用増などを背景に職を失った人たちの不満や怒りを代弁。他人にはトランプ支持者であるとは言わない「隠れトランプ支持者」も増えていったそうです。まさにトランプさんの戦略勝ちだったと言えます。
さて、問題はこれからです。「アメリカ第一主義」を掲げるトランプさんが大統領に就任した後、日米関係にどんな影響が出るのか。これまでの発言では、日本には駐留米軍の経費負担を増やすよう求める考えを示しています。アメリカが提供する核の傘などの抑止力についても、日本側と協議する必要があるとしています。
環太平洋経済連携協定(TPP)については「撤退する」「アメリカの製造業は致命的な打撃を受ける」などと繰り返してきました。為替政策ではドル安方向に進めてアメリカ企業の輸出を増やそうという考え方。FRB(米連邦準備理事会)の議長人事にも口を出すという姿勢です。年内の利上げ観測は高まっていたのですが、仕切り直しとなるかもしれません。
選挙戦中、トランプさんが掲げてきた劇薬のような公約の数々。これらの政策を今後、どのように実行していくかは不透明な部分が多く、予測ができない状況です。トランプさんが上手に政権運営できるかどうかは副大統領となるインディアナ州知事、マイク・ペンスさんや閣僚人事にかかっています。すでに元NY市長のルドルフ・ジュリアーニさんらの名前が挙がっているようですが、はたしてどうなるのか。目が離せませんね。
日本経済新聞 編集局キャスター長
阿部奈美
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