先日、駐日仏大使夫人のフロランス・ゴドフェルノーさんにインタビュー取材しました。ご主人が2014年6月に大使に任命されたとき、パリの老舗出版社、アルバン・ミッシェル社で広報部長という要職に就いていたゴドフェルノーさんは、そのまま仕事を続ける選択をしました。
いまは暮らしの拠点を高校生の息子も住むパリに置き、月に1度は東京に来て大使夫人としての仕事をこなすという、文字通り「グローバル」な生活を送っています。
大使夫人とて、大変な役目です。ゴドフェルノーさん自身、「実際にフランスと東京を行き来しながら仕事をこなすことは簡単なことではありません」と語るように、超ハードな日々であることは間違いありません。それなら、出版社を辞めるという方法もあったのでは、との疑問が取材中にふと頭をよぎりました。
そこでゴドフェルノーさんに、日本の女性が結婚や出産を機に会社を辞める人が少なくないことを含め、女性と仕事について聞いてみたところ、次のような答えが返ってきました。
「結婚したからといって夫がすべてを運んでくれるわけでもありません。自分のなかでしっかりとしたものを構築していく必要性があるのではないでしょうか」
彼女の生き方の柱となっている「自分のなかでしっかりとしたものを構築する」というモチベーションが、取り巻く環境が変化しても仕事を続けるという選択の基本となったように思いました。
この「自分のなかでしっかりとしたもの」は自らの強みにもなります。落ち込んだり、スランプに陥ったりしたとしても、「自分のなかでしっかりとしたもの」があれば、それが救いとなることもあるでしょう。取材のあとにそんな感想を持ったのですが、それからあまり日がたたないうちに、改めてその言葉を思い出すニュースに出くわしました。
10月23日、英国のバンド「デッド・オア・アライヴ」のボーカル、ピート・バーンズさんが急死しました。バブル時代を過ごした方は覚えているかもしれませんが、「デッド・オア・アライヴ」は「You Spin Me Round」や「Turn Around And Count 2 Ten」など、1980~90年代のユーロビート全盛期を代表する世界的なヒットを連発しました。
特にピートさんは、ロングヘアにメイクを施しボディコン姿の妖艶で整った外見と、野太い声とのギャップで日本でも大変な人気で、テレビの歌番組で何度も生出演をしていました。当時、ディスコにいくと盛り上がるときに必ずといっていいほどかかっていたのが、ビートさんの歌う曲でした。
そのピートさんが整形手術にはまり、ある時、唇の整形に失敗して顔面が変形。全身に炎症が広がり生死の境をさまよったことを、ブームが去って何年もたったときにあるテレビ番組で知りました。ピートさんは治療費を捻出するために蓄財を使い果たし、顔の再生手術もかなわないと知り生きる気力もなくしていましたが、医師のこんな言葉に励まされたそうです。
「あなたにはまだ音楽が残っている」
ピートさんを絶望の淵から救ったのは、「音楽」だったわけで、ピートさんの訃報を受け、同じ頃に活躍したカルチャークラブのボーカル、ボーイ・ジョージさんがピートさんのことを"such a big part of my life"(自分の人生の中で大きな存在)だったとツイートとしたことからも、ピートさんが「音楽」で果たした役割がいかに大きかったかがわかります。
この「音楽」というのは、ゴドフェルノーさんがいうところの、ピートさんにとっての「自分のなかでしっかりとしたもの」なのではないでしょうか。
では、「自分のなかでしっかりとしたもの」を構築するのはどうしたらいいのか。自分で自分を律していく、といった自立や自律の精神が大事なのだと思いますが、言うは易く行うは難し、でもありますね。
まずは、実践している方の話を聞いて参考にしてみるのもいいかもしれません。ちょうど11月8日に日経ホール(東京・千代田)でゴドフェルノーさんに「新しい働き方を考える」をテーマに改めてインタビューをします。よろしかったら、足を運んでみてください。
日本経済新聞
編集委員兼政治部シニア・エディター兼キャスター
木村恭子
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