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ニュース報道の心

2016年10月14日(金)変わる自動車業界の競争軸 山川龍雄

 トヨタ自動車とスズキが提携を発表しました。1995年に日経ビジネスに配属されて、最初に担当したのが自動車業界。そんな私にとって、この提携は感慨深く、10月12日に開かれた記者会見にも参加しました。駆け出しの記者時代、誰よりもパワフルで、饒舌だった経営者と言えば、スズキの鈴木修会長(当時は社長)。そんな鈴木氏も86歳。会見の席上で、言葉を絞り出すように話す姿を見ながら、歳月の流れを感じまた。そして、この20年間で、自動車業界の競争軸が大きく変わったことを思い知らされました。


 印象的だったのは、鈴木会長が「良品廉価の車作りだけでは、行き詰まる」と語ったことです。「安くて良い商品を作れば、消費者はついてくる」。これは日本企業が信じて疑わなかった定説だと思います。しかし、自動車業界の競争軸はそれほど単純ではなくなっています。世界的に規制が強まっている環境技術や、自動運転などの安全・情報技術に対応できなければ、良い商品であっても、駆逐されてしまう。そのことを悟った鈴木会長が米ゼネラル・モーターズ(GM)、独フォルクスワーゲン(VW)を経て、最後に拠り所としたのが、トヨタでした。


 「良品廉価だけでは勝てない」という思いは、トヨタにも共通しています。会見で豊田章男社長は「同じ志を持つ仲間作りが重要だ」と強調し、「トヨタはアライアンスが苦手な会社だったが、これからはオープンになる」という主旨の発言を繰り返しました。念頭にはハイブリッド車の教訓があると思います。トヨタは燃費と走行性能を兼ね備えたハイブリッド技術に自信を持っており、この素晴らしさは世界中で理解されると信じていました。


 しかし、現実にはハイブリッド車のおよそ半分は日本で購入されており、ガラパゴス化しています。発売当初、トヨタが技術を囲い込み過ぎて、他社が手を出せなかったことや、トヨタの独走を警戒した他陣営が電気自動車などへの誘導を政治的に働きかけたことが、一因と言われています。豊田社長が「仲間作り」を強調する理由はそこにあると感じます。


 今回の提携で、自動車業界の競争の軸足が新興国へと移っていることも、実感しました。トヨタ側の最大の狙いは、インド市場の攻略でしょう。インドは2020年代に人口が世界一になることが確実視されています。


 インドの乗用車の市場規模は世界5位ですが、二輪車市場は世界一。いずれ乗用車でも中国や米国に匹敵する巨大市場になるはずです。ところが世界の主要な自動車メーカーは攻めあぐねており、トヨタも5%程度のシェアしかありません。ここで4割以上のシェアを持つのがスズキです。インドを攻略するうえで重要なのが、小型車を低コストで作る技術と部品網。そして、広い国土に張り巡らせた販売網です。これを30年以上かけて築いたのがスズキであり、トヨタはそこでの協業を望んでいるはずです。


 それにしても、トヨタは懐が深い会社だと思います。かつて海外メーカーと組んだ国内勢が次々とトヨタの下に集まっています。GMの傘下だった富士重工業といすゞ自動車とは資本提携を結び、フォードモーターの傘下だったマツダとは包括提携を結びました。そしてVWと袂を分かったスズキと提携交渉を始めたわけです。記者会見では、常に鈴木修会長を立て、謙虚にふるまう豊田社長の姿が印象的でした。群雄割拠の戦国時代。最後に国を治めたのは徳川家康でした。自動車戦国時代も、三河で育った自動車メーカーのしたたかさが目立ちます。


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