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ニュース報道の心

2016年9月30日(金)「牛丼を食べながら東京を思う」 武田仁

 「つゆダク」「ねぎダク」「つゆダクダク」。ふらりと訪れた小さなお店のU字形のテーブルはきょうも満席、注文の声が元気に聞こえました。ここは築地市場(東京・中央)にある牛丼の「吉野家築地1号店」。知る人ぞ知る吉野家の創業店です。1959年にオープンして以来、築地市場で働く人たちのおなかを満たしてきました。


 9月は日本経済新聞の「私の履歴書」に、吉野家ホールディングスの安部修仁会長が登場しています。連載初回1日付には、築地1号店について「成長の礎となった創業店」と記されていました。履歴書を読み進めると、安部会長が22歳で吉野家の正社員となり、最初の配属先が、この築地店だったことがわかりました。


 さて、最初の客が注文した「つゆダク」は牛丼のタレが多めで、他の店でも普通にあります。ここ築地では、玉ねぎが多い「ねぎダク」、さらにタレが「つゆダクダク」「つゆダクダクダク」と増えていきます。それだけではありません。どんぶりのフチの部分の角度を変えて広がりを持たせ、その分だけ肉をたっぷりのせた「アタマの大盛り」はこの店の定番で、店内に正式メニューとして掲げられています。無言で座ると注文が通る常連の客もいます。そう、ここ築地市場は牛丼の聖地なのです。


 この築地1号店、連日のようにテレビや新聞に取り上げられている築地市場の豊洲市場(東京・江東)への移転によって閉店することが明らかになっています。聖地への巡礼を急ごうと多くの牛丼ファンが駆けつけています。吉野家もチャンスとみて、「ありがとう!築地市場」とうたったキャンペーンを企画して、売り上げアップにつなげています。


 そんな築地ですが、小池百合子氏が東京都知事に就任してからは、状況が変わっています。豊洲市場の整備で、土壌汚染対策として盛り土をするはずだった場所に都民が知らないうちに地下空間ができていた問題が浮上しています。築地市場の移転の実現、つまり築地1号店の閉店は一体いつになるのか、全くみえなくなりました。


 9月28日に開会した東京都議会。小池知事は所信表明で、豊洲市場問題を真っ先に取り上げました。「都政は都民の信頼を失った」と小池知事。この日の日経プラス10はフカヨミプラスのコーナーで、谷隆徳論説委員が「豊洲が危ないという認識が広がってしまうと、今後の調査で安全性が確認されたとしても追加対策が必要。そうなると予算措置が必要になります」と指摘。当初は早ければ来年5月という移転時期について、「さらに半年、場合によっては1年以上遅れるのでは」と解説しました。29日には豊洲市場の地下水から環境基準を上回るベンゼン、ヒ素を検出したことを報じました。


 移転を巡る騒動も手伝い、築地は大賑わいです。当たり前ですが、お目当ては牛丼だけではありません。市場とその周辺には、寿司、ラーメン、そば、パンなど、小さな人気店が多く、長い列ができています。元気なシニアのグループ、修学旅行生、急増している海外旅行客、一体ここはどこの国なのか。多様な人種、年齢、喧噪、にぎわい。移転するならば、このエネルギーをそのまま持って行ってほしいものです。


 再び牛丼店。入口に次のような文章が掲げられています。「吉野家の歴史は1899(明治32)年、東京の魚河岸にて牛丼店を開業したことに始まります」。なるほど、どこかから移転してきて今があるのですね。「この魚河岸の皆様にご満足いただくために自然と培われていったのが『はやい・うまい・やすい』牛丼をお出しするという、私たちの基本でした」と続いています。長い歴史を通じて市場で働く人たちの満足を考えて店づくりをしてきたという心意気が伝わります。


 翻って東京都。都議会議員、都の職員たちの「基本」はどこにあるのでしょうか。築地で働く人、一般の消費者のことを第一に考える、そうあるためには情報公開が欠かせません。番組としても築地1号店を見習って、ぶれずにこだわりを持って報じていかねばと気持ちを新たにしています。

BSジャパン 日経プラス10プロデューサー
武田仁


記事は日経プラス10クラブ会員向けのメールマガジンで毎週金曜日に配信しています
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