2017年度の税制改正に向けて、ビール類にかかる酒税の見直し議論が政府・与党内で始まりました。財務省が示した案はビール類にかかる税率を数年かけて一本化するというもの。
税額が最も高い通常のビールは減税、発泡酒や「第三のビール」は増税するという内容です。この一本化案、一見朗報のようですが、はたして「消費者ファースト」なのでしょうか。
ビール類にかかる酒税の額は原料や製法の違いで異なります。7月12日の番組でも触れましたが、350mlあたりの税額は原料の3分の2以上に麦芽を使う「ビール」が77円、麦芽の使用を抑えた「発泡酒」が47円。発泡酒にスピリッツを加えたり、主原料に麦以外を使った「第三のビール」(「新ジャンル」とも呼ばれる)が28円。財務省は今の税収を総額で変えないことを前提に、これらの異なる税額を一律55円にしたい考えです。
税額の差は小売価格にも大きく影響しています。ちなみに、昨晩訪れた都内のコンビニやスーパーの店頭価格は通常のビールは189から223円(350ml缶、消費税込み)だったのに対し、発泡酒は129から165円(同)、第三のビールは109から144円(同)でした。
では需要はどうか。今年1月から6月期の国内出荷量(ビール5社合計)の内訳をみると、通常のビールが49.6%と5割を割り込んでいる一方、第三のビール(36.4%)と発泡酒(14.0%)は合わせて5割を超えています。「ビール減税」を先取りして各社が新商品を投入し攻勢をかけたこともあって全体が伸び悩む中で通常のビール分野は前年同期比0.4%増とわずかに伸びましたが、「ビール復権」と言える水準ではありません。
そんな中で、ビールばかりを重視しすぎると、第三のビールや発泡酒が手薄になり、市場全体をかえって冷え込ませかねません。割安なのに従来よりビールに近い味わいの第三のビールが出てきたほか、糖質やプリン体を抑えた健康配慮型の商品は発泡酒に多いことも無視してはいけないと思います。
近ごろはシチュエーションによって飲み分けする消費者も多いです。例えば、家飲み用には「のどごし<生>」や「金麦」など第三のビール、飲食店では「スーパードライ」や「一番搾り」など通常のビールを選ぶ人もいます。今日はちょっと奮発して「ザ・プレミアム・モルツ」や「エビス」を飲もうという人だっています。
ハイボールをよく飲んでいる人がビール類を飲むこともありますよね。もはや、ビール類の消費市場はビール派vs節約派という単純な構図ではなくなっているわけです。「ビール減税と引き換えに、新ジャンルや発泡酒を増税するのは市場全体を冷え込ませてしまうのではないか」。取材した大手ビールメーカーの販売担当者は危機感をあらわにしていました。
政府・与党内では今後、一本化案を軸に検討が進められるそうです。市場の成長をにらんだ税制改正のはずが、「ビール類」離れを加速させてしまっては元も子もありません。チューハイなども含めアルコール飲料全体の消費動向やビール業界の成長性なども見極めた上で、消費者ファーストで結論を出してもらいたいと願っています。
日本経済新聞 編集局キャスター長
阿部奈美
記事は日経プラス10クラブ会員向けのメールマガジンで毎週金曜日に配信しています
詳しくはこちら⇒http://www.bs-j.co.jp/plus10/club/