アベノミクスをもう一度ふかす――。安倍首相が指示した経済対策が今週2日、閣
議決定されました。国と地方の予算に財政投融資なども含めた事業規模は28兆円余
り。複数年度にまたがるとはいえ、2009年、08年に次ぐ大きさです。
事業規模が56兆円に上った09年はリーマン・ショック後の経済危機への対応でし
た。それに比べて今の経済状況はどうでしょう。確かに中国経済の減速懸念やイギリ
スのEU離脱が世界経済に与える影響など、不確実性はありますが、為替や株式市場
はBrexitショックの混乱からは落ち着きを取り戻しており、ここまで大規模なものが
必要なのか、疑問が残ります。
今回の経済対策の中身をよく見てみますと、公共事業など短期的な需要増加策が目
立ちます。重要なのは、財政と金融政策の連携だけでなく、同時並行で、将来的に利
益を生み出す新たな市場や分野を成長させる構造改革を着実に進めること。将来に不
安を抱いたままでは、企業の投資意欲や消費者心理が前向きにはなりません。
公共事業では、リニア中央新幹線の全線開業の前倒しや、海外からの観光客を増や
す大型クルーズ船向け港湾整備などが挙げられています。公私ともに新幹線をよく利
用している私としては乗る度に「リニアが早く実現しないかなぁ」と内心思います
が、政策となると、やはり優先順位があると感じます。実際、建設現場では深刻な人
手不足や資材の高騰などから「計画通りの工事が本当にできるのか」といった声も出
ています。
安倍首相は経済対策を通じて、当面の需要喚起にとどまらず、民需主導の持続的な
経済成長や一億総活躍社会の実現を進めていく考えを示しています。一億総活躍社会
の実現に向けて、働き方改革として長時間労働の是正や同一労働同一賃金の実現など
を進めるとしていますが、どう進めるのか、道筋を示してほしいです。
今の日本は自然減だけで年20数万人ずつ人口が減っています。これは中核都市1つ
分の人口に近い規模です。中核都市が毎年1つずつ消滅しているような人口減が起こ
っている日本の経済や社会が今後、競争力を維持するには、労働市場や社会保障の
実効性のある改革を、財政・金融政策と同時並行で着実に進める必要があります。
最後にもう一つ、外国人をどう受け入れていくか。世界では有能な人材の争奪戦が
始まっています。日本で働く外国人が社会に溶け込める仕組みを含め、外国人の受け
入れ拡大に向けた新たな総合戦略を練るべき時期に来ていることも忘れてはならない
と思います。
(日本経済新聞 編集局キャスター長 阿部奈美)
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