トヨタ自動車が在宅勤務制度を見直す方向で労働組合と調整に入ったことが明らか
になりました。週1日2時間だけ出社すれば残りは家などで働ける制度で、これまで一
部の社員に限っていた利用対象を8月にも総合職約1万3000人に広げるそうです。
このニュースで私が最も注目したのは、在宅勤務という働き方に対するトヨタの捉
え方が変わった点です。これまでは1歳未満の子どもを抱え、勤続年数や職種など一
定の条件を満たす社員などしか利用できませんでしたが、今後はそうした理由の有無
に関係なく利用できるようにします。つまり、育児や介護などを抱えた社員の「両立
支援策」との位置づけだった在宅勤務を、「両立支援」だけでなく、「生産性向上を
図る」ための柔軟な働き方として捉え直すというわけです。
在宅勤務という働き方は20年以上前から日本にありました。しかしながら「導入コ
ストが高い」「機密保持の安全性が保てない」「労務管理が難しい」「コミュニケー
ションが希薄になる」といった理由から、IT関連企業などを除けば積極的に導入する
例は限られていました。それが一転、企業の考え方が最近変わってきたのはなぜか。
理由は主に3つあると思います。まずICT(情報通信技術)の進歩で機密保持の安全
性が高まり、導入コストが格段に下がったこと。次に人手不足に対する経営者の危機
感が強まったこと。3つ目は事業のグローバル化で、時差のある海外拠点とやりとり
する企業が増えていることです。
トヨタより一足先にサントリーホールディングスや日産自動車も、育児や介護とい
った理由の有無に関係なく在宅勤務できるよう制度を改めました。両社とも今では場
所や時間に縛られず効率的に働いて成果を出すという雰囲気が職場に広がり、意識改
革にもなったそうです。三菱東京UFJ銀行も昨日、在宅勤務と始業・終業時刻をずら
せる制度を導入すると発表しました。
日本は労働時間が長いのに生産性は低い。経済協力開発機構(OECD)によると、日
本の労働時間1時間当たりの生産性は41.3ドルと米国(65.7ドル)やフランス(61.2
ドル)などとの差は大きいです。
在宅勤務を導入すると「時間当たりの生産性」を意識せざるを得なくなります。働
きぶりが見えない分、おのずと出てきた成果を評価するようになる。ひょっとする
と、在宅勤務は人事マネジメントに改革をもたらす有効な手段になるかもしれませ
ん。もっとも、対面でなければうまくいかない業務は沢山ありますので、あくまで
「仕事の内容や時期、社員の力量などに応じて」という前提を忘れてはならないです
ね。
(日本経済新聞 編集局キャスター長 阿部奈美)
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