「それ以上でも以下でもありません」。5月26日、番組で報じたセブン&アイ・ホ
ールディングス株主総会後の記者会見の様子。カリスマ経営者、鈴木敏文氏が社長を
退き、名誉顧問に就任したことを受けて、新社長の井阪隆一氏が語った言葉です。鈴
木氏の今後の位置付けについての質問に対して、井阪氏は「顧問の位置付けは、相談
したいときに相談できる存在だ」と答えました。これに続けて「それ以上でも以下で
もありません」と語ったのです。
この「それ以上でも以下でもありません」というフレーズを聞くと、日本経済新聞
の記者として霞が関のある官庁を担当していた当時を思い出します。幹部の記者会見
やインタビューなどで、質問をしていくと、あるところで、決まって「それ以上でも
それ以下でもございません」との答えが返ってきたのです。
ライバル紙の敏腕記者が「もう、ここまでで分かれ。これ以上は聞いても何も出な
いぞ」という意味だと丁寧に解説してくれたことも思い出します。(私だって、それ
ぐらいわかります)。めげないで少しだけ角度を変えて質問をしてみても、言葉の主
は固い殻にこもってしまい、もどかしい思いをしたものでした。
井阪氏はどうだったのでしょうか。鈴木氏が主導した社長人事案が否決されて退任
することになり、その後を継いだわけです。構造改革を進める覚悟を示さないとなら
ないし、カリスマ経営者への配慮もしなければならない。自らの置かれている微妙な
立場について「わかってくれよ」という心境だったのだと察することができます。
それにしても「それ(これ)以上でも、それ(これ)以下でもー―」という呪文の
ようなフレーズ。最近、再び多くなってはいないでしょうか。岸田文雄外務大臣、加
藤勝信内閣府特命担当大臣、最近の記者会見の発言を調べても何人かの閣僚が愛用し
ていることがわかります。もちろん、与党だけでなく、野党の記者会見でも同じよう
に出てきます。
永田町や霞が関では水戸黄門の印籠のような効果があるのか、「ははー、それ以上
でもないとのお言葉、しかと受け止めました」。説明を尽くしてもらうはずの記者会
見の場、ひとたびこのフレーズが出てくると、ものわかりがよい人ほど思考を停止し
てしまいがちです。
「それ以上でも以下でもない」の先には一体何があるのでしょうか。それを探して
伝えることができるか、ニュース番組の腕の見せ所なのかもしれません。
今回はプロデューサーの武田仁が担当しました。
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