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ニュース報道の心

2016年2月5日(金)マイナス金利に思うこと 豊嶋広

 日銀は1月29日、初のマイナス金利導入を決めました。「お金を預けるのに金利を
取られる」ーー。この意外感が、新しい金融政策への関心を高めたように思います。
「日経プラス10」でも、日銀取材20年の清水功哉編集委員による解説をはじめ、手厚
く取り上げました。


 記者会見に臨んだ黒田東彦総裁は、余裕の表情を見せた場面もありました。事務方
に追加緩和が必要な場合のオプション検討を指示したのが、ダボス会議に発つ前の21
日。日経平均株価が1万6000円割れ寸前まで下げた日です。マイナス金利を諮った金
融政策決定会合も、5対4の僅差での採択。そういう緊迫した雰囲気を少なくとも記者
会見場に持ち込まなかったのは、長年の危機対応への経験でしょうか。


 年初から極まった世界の市場混乱が、今回の異例の決定につながりました。ただ、
震源地は中国を起点とする新興国市場の混乱という構図です。日銀の追加緩和が、こ
うした問題の歯止め役になれるのかは、当然ながら疑問があります。2013年4月に導
入した量的質的緩和が押し上げようとしている「物価の基調」が崩れるリスクを防ぐ、
ということが政策決定の説明でしたが、銀行株急落にみられるような副作用も予期で
きたところです。


 中央銀行には急激な市場変動を止める、オフセットする役割も期待されています。
日銀は今回、そちらに軸足を置いたとみていいでしょう。中国発の市場混乱が「アジ
ア通貨危機を招いた1998年型か、あるいはリーマン・ショックで世界を揺るがせた
2008年型か」という議論が公然とされています。危機を未然に防ぐには、金融当局の
連携が必要ということは歴史が教えています。欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は
すでに、追加緩和を示唆しています。利上げモードに入った米国の動向が気になると
ころですが、ダドリー・ニューヨーク連銀総裁の「金融情勢は昨年12月の米連邦公開
市場委員会(FOMC)会合時よりかなり逼迫している」という発言が3日に伝わりまし
た。金融市場と日々、対峙しているニューヨーク連銀トップの発言だけに、危機感の
共有は進んできたとみます。


 ところで、震源地の中国については資本移動規制論が浮上しています。1月25日の
番組でも触れましたが、黒田総裁のダボス会議での発言が引き金になりました。マイ
ナス金利を決めた後の記者会見でその真意を問われ、「国際金融のトリレンマと言え
る。金融政策の独立、為替安定、自由な資本移動を同時に満たすことはできない」と、
資本流出のリスクが存在する中での資本移動規制に一定の合理性はあると話していま
す。主要通貨の仲間入りを意味する国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)に、
人民元が昨秋、採用されたことからしても、通貨の自由化の道は外すわけにはいきま
せん。ただ、危機が視界に入っているなかで一時的な避難措置は許容範囲ではないか、
というのが黒田理論です。マイナス金利決定だけではグローバルな危機対応には限界
があるという意識とセットで考えるべきでしょう。


 今のところ、資本規制に対して中国から公式の反応はみられず、むしろ外国機関投
資家の一部に資本取引をより自由化させる方向との一部報道もあります。今年は中国
が20カ国・地域(G20)の議長国。上海で26日から開催される財務相・中央銀行総裁
会議での議論進展を見守りたいと思います。

       (日本経済新聞社編集局キャスター長兼経済部シニア・エディター)


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