
いい表情の写真を撮るのには、やっぱり会話が大事なのでしょうか?
私は会話をしていると逆にシャッターチャンスを逃してしまいます。どうすればいい?コツは?
無言でバシバシ撮られてたら、向こうも薄気味悪いじゃないですか。
だから「あーいい顔になってきましたね」とか、
「あー今の笑顔すごい素敵ですよね」とか、
褒めまくったらいいんじゃないですか。
「お母さん若いですよね。その笑顔で若い頃は男泣かせたんでしょ」とか、出来る限り。
半分土足で、でも礼儀正しく家の中に上がるヨネスケになって頂いてですね。
最後は心を開くっていうね。
最後の一瞬さえ撮れればいいわけですから。
場数を踏むしかないんで。
数やってる内に、段々自分がコントロール出来る様になるんで。
まずは半年、1年、勉強のつもりで。
しゃべりながらいい表情の時、今だ今だと思って。
僕なんかね、高校生ぐらいのときに、
カメラを持って好きな女優さんが出てるテレビドラマ見て、
その女優さんの一番いい表情をカメラのレンズをテレビ画面に向けて、
空シャッターで練習した事もありますよ。
自分で考えた練習方法ですけど。
デジタルカメラだったらすぐ出来ますもんね。
それに、あまり、襲い掛かるような貪欲さを見せるのはどうなんだろう?
魂取られるじゃないけど、
なんか、あまり気持ちいいもんじゃないかもしんないですよね。
だから結構さりげない感じでいた方がいいんじゃないですかね、カメラマンは。
それで、経験で相手の心をうまくリード出来たら、楽しくなりますよね。
相手に振り回されずにね。
昨日もそこのガソリンスタンドに真っ赤なジャガーを若い人が乗ってきて
ガソリン入れてたんですよね。
割かし古いタイプのジャガーなんで、
5人ぐらいの若い男性従業員が、みんな出てきて、車囲んで談義してるわけですよ。
それいいなと思ってカメラ向けたら、
ガソリンスタンドの人が気が付いて、ピースサインを送ったんですね。
そのまま自然にいてください、と。
そこで車のオーナーに、それをきっかけにその会話の中に入っていくんですね。
「これジャガーですか?何年ぐらいのですか?」って。
そうするとオーナーの人は得意になって、
「68年のです」なんて言いだすんですよね。
「イギリス車ですよね。僕もイギリス車大好きでMGとかモーガンとかありますもんねって、
ジャガーは一番高級感ありますよね」とか褒めるわけですよね。
そのうちにガソリンスタンドの人たちも一体化してきて、
ガソリンスタンドのスナップ写真としては、完成した写真が撮れたりしましたけどね。
その彼らの空気の中にフッと入っていくっていうね。
そういうの必要ですね。
その場、その場で一番差し障りのない写真を撮る理由っていうのを
2、3頭の中にしまっておいて、
とっさに出せるような台詞を考えておくっていいかもしれないです。
例えば、ワンちゃん連れてる人を撮る場合は
「あーかわいいワンちゃんですね。ちょっと一枚ワンちゃんの写真撮っていいですか」って、
それで十分ですよ。
カップルの場合は「素敵な彼女ですね」って言ったら彼に怒られるから、
「二人の雰囲気いいですよね。
まるで外国のようですね、お二人見てると。写真撮ってもいいでしょうか?
いい写真がたくさん出来たら、個展とか是非出したいんですけど、どうすかね?」
っていうぐらいまで言っちゃうんです。
そうすると向こうは撮る理由は個展かと。
俺たちを外国で見るカップルのように素敵だと思ってくれてるのかと。
色んな情報が向こうに入りますよね。
そうすると、ほとんどなんで撮るんですかとか、聞き返されないでOKになりますけどね。
その場その場のシチュエーションで一番波風立たなく、
彼らの空気の中にフッと入って行くような、言葉を2、3用意しておく。
前の2つに当てはまらないような場合は、
「ずっとこの街を撮ってるカメラマンなんですけど、
今日出会った一番最初の素敵な感じなんで1枚いいですか?」とか。
そういったちょっとした理由付け。
そうすると納得するじゃないですか、向こうは。
なんで撮るのかっていうのを、向こうは知りたいわけですよね。
それを自分がちゃんと大きな声で素敵だからとか、
いつか作品が溜まったら個展をしたいとか、
この街にこだわって自分の街だからちょっと撮ってるとか、
もっと広く言えば東京って街を撮ってるとか、
そういった自分のある程度の素性を表すようなワンフレーズを言っとくと、
向こうは納得するんじゃないですかね。
最初からいい写真出来たら個展したいんですけどって言っちゃえば、いいじゃないすか。

1950年東京生まれ。大学で経済専攻。卒業後、1973年にロンドンに渡り、およそ10年間を過ごす。ロンドンでは、一時期ツトム・ヤマシタミュージカル劇団レッド・ブッダで役者をしていたこともある。一方、折からのパンクムーブメントを実体験し、70年代の生きたロンドンの姿を写真に記録するようになった。特に、ロンドンのロックミュージシャンの撮影では高い評価を受けた。帰国後もヨーロッパと日本を往復し、アーティストから巷の人々までを、気取りのない優しい表現のモノクローム作品に残している。その飾らぬ清楚な作品を好むファンは多く、写真集や写真展の他にエッセイ執筆、ラジオのDJ、音楽番組などで活躍し、写真家のジャンルを越え幅広い活動で人気を得ている。