俳優の香川照之さんに、先月インタビューしました(11月23日放送)。歌舞伎役者「市川中車」の顔も持つ香川さんに、最近「代表取締役」の肩書が加わりました。昆虫の模様をあしらった服のインターネットで販売し、自然保護など思いを伝えたいという香川さん。芸能活動で多忙を極めるなかで、なぜ起業してまで取り組むのかと問うと、こう答えました。「生物はやがてすべて天にお返ししないといけない。一方、人間がつくり出した英知のなかに『企業』というものがあるのなら、なにか残すことができるはず」。人気役者の存在感は、圧倒的でした。
香川さんが言うように理念や価値を引き継ぐために「企業」があるのだとすれば、民間出身の取締役9人全員が辞任に至った官民ファンドの産業革新投資機構は皮肉な展開をたどりました。
「これまでより報酬が減っても、国のために知見や経験を差し出して、将来にプラスにならないかという思いで」就任した田中正明社長。機構は金融や投資のエキスパートがそろい、それぞれの理念や価値を引き継いで、不振企業の救済よりも次世代の産業を育てて日本の競争力を高めるファンドに変えようとしました。経産省も当初はプロを集めるため、それなりの報酬水準を出すという姿勢でした。所管の経産省の意見を聞かなくても投資できる仕組みをつくり、国の関与を薄めてスピード感のある運営もできる......役者がそろい舞台も整えた、はずでした。
ただ、機構に大半出資している政府や、有権者の視点で考えれば「不透明な投資」「国民感情からかけ離れた高収入」といった批判や深刻な衝突は、実は早晩起きたのではないでしょうか。公的ファンドのありようについての議論不足、官民の共通認識の欠如が生んだ辞任劇でした。
2018年も残りわずかですが、米中対立、ブレグジット、日産などなど波乱含みです。日経プラス10は年末ギリギリまで、世界中で起こる「ドラマ」をお伝えしていきます。
日経プラス10キャスター
岸本好正
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