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ニュース報道の心

2015年12月18日(金)露骨な選挙対策、シルバー民主主義再び 山川龍雄

 ここへきて、政府から打ち出される施策が、選挙対策の色彩が濃いものばかりにな
ってきた印象を受けます。典型例が、所得の低い高齢者に対し1人3万円程度の給付
金を支給する方針です。既に今年度補正予算案に約3600億円を計上しており、給付は
来年夏の参院選前になる見込みです。この案はそもそも2017年4月の消費増税時の痛
税感を和らげる目的で浮上したものでした。それが、なぜか選挙前に前倒しされよう
としています。


 一方、時を同じくして、児童手当を受ける世帯を対象に、子ども1人あたり3000円
を追加支給する「子育て世帯臨時特例給付金」事業を2016年度は継続しない方針を決
めました。こちらの財源は15年度予算ベースで約600億円。しかし、軽減税率の導入
もあって、財源のメドが立たなくなったというのです。


 何か矛盾を感じませんか。安倍政権は「1億総活躍社会の実現」をめざし、「希望
出生率1.8」を目標に掲げています。にもかかわらず、子育て世帯に対する給付は打
ち切られ、お年寄り向けには、新たな給付が追加されようとしています。選挙が迫っ
てくれば、やはり大切なのは、投票率の高い高齢者ということなのでしょう。


 選挙対策といえば、軽減税率の導入こそがまさにそれに当てはまります。そもそも
導入にこだわったのは公明党。その公明党との選挙協力を優先した首相官邸が自民党
内の反対意見を押し切り、導入を決めました。1兆円という財源のめどはたっていま
せん。おそらく今回の子育て給付金の廃止のように、これから他にも割を食うものが
出てくるでしょう。ただ、それが明るみになるのは、参院選の後だと思います。


 私はかねて「消費税を10%にする段階での軽減税率の導入は時期尚早」であり、
「低所得者向けの直接給付にすべき」との立場をとってきました。番組でも何度かこ
の意見を述べてきました。日本の消費税にあたる付加価値税をいち早く導入している
欧州では、標準税率が20%前後に対し、軽減税率が数%というケースが大半です。そ
のくらい差があるからこそ、軽減税率は痛税感の緩和につながるのです。


 片や、日本の場合、わずか2%の差しか生じません。これでは、軽減税率の導入に
伴う経済コストだけが高くついてしまいます。それに軽減税率はお金持ちから低所得
者層に至るまであまねく恩恵を受けるものです。財源が豊富にあるならともかく、無
いのであれば、限られた原資は、低所得者層や子育て世代などにピンポイントで給付
した方がよいと思いませんか。


 同様にTPP対策費も、選挙対策のにおいがします。現在、農業対策費としては、
約3000億円が補正予算に盛り込まれようとしています。農業インフラ整備、畜産・畑
作分野の競争力強化などが、使途として挙げられています。しかし、TPPはまだ発効
していないので、農家は当面、TPPによる影響は受けません。にもかかわらず、なぜ
今、対策費が必要なのでしょうか。選挙を控え、農業の組織票を意識しているように
思えてなりません。


 善意に解釈して、来るべきTPP発効に備え、今から競争力強化に取り組むための予
算が必要だとしましょう。だとすれば、適切に「攻め」の農業に使ってほしいもので
す。かつて貿易交渉「ウルグアイ・ラウンド」で、コメの部分的な市場開放に合意し
た政府は、国内農業への影響を緩和する目的で、計6兆円に及ぶ対策費を計上しまし
た。しかし、その予算の多くは公共事業に使われ、農業とは関係のない道路整備や温
泉施設などに化けました。今回も競争力強化とは直接関係ないところに予算がばら撒
かれる懸念があります。


 政治家は選挙で落ちれば、ただの人。政党は議席を獲得してこそ、通したい政策も
通せる。その意味では、選挙が近づけば、勝つことを最優先するのが政界の常道なの
かもしれません。ただ、それにしても、選挙が近づく度に、割を食うのは若年層や子
育て世代。今回もまたそんなシルバー民主主義が台頭していることには、正直うんざ
りしています。         


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