この番組はBSテレ東4K(4K 7ch)で
超高精細な「ピュア4K映像」をご覧いただけます

ニュース報道の心

2015年9月25日(金)田村正之編集委員「自宅売却の盲点」 小谷真生子

 9月16日に基準地価の発表がありました。このニュースで関心をひくのは住宅の売
買が活発か否か。そして、どの地域が安くなり、高くなったか、ではないでしょう
か。2015年7月1日時点の三大都市圏の住宅地の価格は緩やかながらも上昇したようで
す。


 今回のフカヨミプラスのテーマは、田村正之(たむら・まさゆき)編集委員による
「自宅売却の盲点」についてでした。「この約2年におよぶ政策を見るにつけ物価が
上がってゆくのでは、と怖くなり賃貸派からマイホームを急遽購入し持ち家派に変わ
った人も多い」と最近の傾向を田村氏は分析します。なぜならインフレになれば、賃
料も上がり、物価も上がります。老後資金はこれまで以上に必要になります。持ち家
のローンを完済できてさえいれば、老後の生活も賃貸派よりは割安で済みます。その
ように先を見据えて、住宅を購入する人が増えれば、当然売る人も増えるわけです。


 ただ「自宅を売却する際、税制の特別控除枠があるのに多くの人はそのことを知ら
ない」と田村氏は言います。「実際、知人もマンションを売って損した分を給与で相
殺して、払うはずだった税金を何百万円単位で減らすこともできたはずなのに、そう
しなかった。単にその制度を知らなかったからです。くやしがっていました」


 そこでまずは田村編集委員が番組で話して下さった、自宅を売却して「損」が出た場合
についての注意点、主に4点です。


 (1)売却して損失がでた場合、その損失分を年間の給与所得から差し引くことが
できます。つまり損失が年間の所得を上回れば、その年の所得はゼロと見なされ所得
税も住民税も支払わなくて済みます。その損失は3年間繰り越せるそうです(給与所得から差し引ける損失額は、売却後ローンを組んで買い替えをするか、あるいは買い替えがないかで若干違ってきます)。


 (2)ただし、損失繰り越しの恩恵を受けるためには、売った翌年に確定申告をす
る必要があります。その確定申告も所得だけの申告では恩恵は受けられません。不動
産の譲渡損(売却損)、譲渡益(売却益)を盛り込む形の確定申告でなくてはならな
いそうです。


 (3)所得税、住民税の優遇を考えると、今の自宅が終の棲家ではない場合には、
売るタイミングはリタイア後よりも所得の多い現役時代に売却した方が税金面でお得
になるようです。


 (4)上記の損失を所得と相殺したり3年間繰り越したりできるのは、売却する家を
5年超もっている場合に限られます。その5年も1月1日時点で「5年経っている」こと
が条件で、「お正月をその家で6回過ごしていれば大丈夫」とのことです。5年以下で
売却すると税率が変わり、特例を受けられなくなります。


 そして、自宅を売却して「利益」が出た場合についての注意点は主に3点です。


 (1) 自宅を売却して利益が出た場合、利益が3000万円までは特別控除により非課
税になります。ただ、その控除が受けられるのは、実際に住まなくなった日から3年
目の年末12月31日までに手放した場合に限られるそうです。これは住民票を移転した
しなかったに関係なく、税務署員が、近隣の住人からの聞き取りや、家主による水道
光熱の使用状況などから、家主が住まなくなって3年以上経過しているか否か、を調
べるのだそうです。


 田村氏が取材した83歳男性のこのようなケースがありました。長年住んだ自宅から
介護ホームに移り、自宅売却したのがその4年後。1000万円ほどの利益は出たものの
特別控除が適用されず、結局、税金数百万円を支払ったのだそうです。その男性は
「介護料金も上がり、生活は苦しい。制度を知っていたらもう1年早い3年以内に売却
したのに」と胸の内を打ち明けたそうです。


 (2)上記の移転後3年以内に売却した場合の「非課税分利益3000万円を超える利
益」に対しては税金がかかりますが、家を保有していた期間により税率が変わりま
す。家を持っていた期間が5年未満は税率39%。5年から10年以下は20%。10年を超え
る場合はさらに税金が安くなります。自宅の保有期間で税率に相当の違いがありま
す。


 (3)家を持っていた期間というのは、原則「引き渡し」から5年だそうです。た
だ、売買契約から引き渡しまで数カ月、場合によっては数年というケースもあるそう
で、その場合には「売買契約」から5年でも認められるケースがあるといいます。


 田村氏がわかりやすく解説して下さった非課税や税率のお話を聞きながら、なぜ多
くの人が自宅を売却する際にいたっても、不動産会社、税理士、税務署などからこれ
らの情報を得ていないのかが不思議でした。


 田村氏はある家主と税務署とのやりとりを教えて下さいました。家主が税務署に電
話をして「家を売ったんですが...」と聞くと、
 税務署員「利益は出たんですか?」
 家主「いえ、損が出てます」
 税務署員「じゃあ、いいです」
 とのやりとりで終わったといいます。
「来年、その譲渡損(売却損)を確定申告してください。そうすれば、損失分を年間
の給与所得と相殺して、所得税や住民税が軽くなりますよ」との丁寧なアドバイスは
どうやらもらえないようです。


 また、懇意にしている税理士に聞こうにも、多くの税理士は決算がメーンの仕事
で、個人や相続についてはあまり詳しくないのだそうです。結局、だれも教えてはく
れないのです。自宅売却で損をした場合の確定申告が必須ということも、利益を出す
ための移転後売却3年以内ルールについても、不動産会社や金融機関が教えてくれそ
うにも思いますが、現実は違うようです。


 田村氏に解決策を聞いてみました。「結局、こどもたちが高校生や大学生の時に運
用、税金、保険などお金にまつわる教育をしておけば、その時はピンとこなくても、
大人になってから記憶がボヤッと残るだけでも違うのです」と仰いました。確かに日
本では学校や家庭でお金の話をするのはご法度です。


 田村氏は退職時の預貯金が3000万円では、長くなった老後生活を営めないといいま
す。自分の老後のためにも、正しい知識でかしこくお金に向き合わねばならないので
すね。

記事は日経プラス10クラブ会員向けのメールマガジンで毎週金曜日に配信しています
詳しくはこちら⇒http://www.bs-j.co.jp/plus10/club/

次へ 前へ コラム一覧へ