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ニュース報道の心

2015年9月18日(金)政策立案にもBtoBtoCの視点を 山川龍雄

 マイナンバーを使った消費税の還付案。概要が明るみになったとたんに批判の声が相次ぎ、政権与党の公明党まで反対に回りました。税負担を和らげる政策は、本来、安倍内閣の支持率アップにつながるはずですが、このまま断行すればむしろ支持率低下につながりかねません。財務省のメンツもあるので表面上は議論を続けるようですが、安倍総理の腹の内はすでに「白紙撤回」でしょう。おそらく安保関連法案を成立させた後の安倍内閣の支持率はいったん低下するでしょう。今後は経済政策で回復を図ろうとするはずで、わざわざ国民に不人気な政策を押し通そうとするとは思えません。


 それにしても新国立競技場といい、五輪エンブレムの問題といい、このところ白紙撤回が繰り返されています。今年の流行語大賞はこの言葉で決まりかもしれません。番組でもコメントしたのですが、最近、政治家や官僚から出てくる政策がいずれも企業を向いたB to B発想で作られているような気がしてなりません。その先に存在するCの存在、つまり消費者や国民への目配りが足りず、結果として、撤回を余儀なくされています。


 新国立競技場の当初案は、建築家やデザイン事務所、建設会社など、「作り手」の意見が重視される一方で、アスリートや観客、周辺住民の声が反映されていませんでした。結果として、キールアーチといった見栄えばかりが強調され、庶民感覚では考えられないほどコストが膨らんでしまいました。五輪エンブレム問題では、限られた人たちの間で審査後に修正が繰り返されていたことが発覚しました。本来、国民全員でオリンピックを盛り上げるための象徴であるはずのエンブレムが、国民不在で決められていたわけです。


 そしてマイナンバーを活用した還付案。これはそもそも経済界の声を受け、財務省がひねり出した案でした。欧州などで普及している軽減税率を導入すると、事業者が商品ごとに税率や税額を明記した「インボイス」と呼ばれる請求書を発行しなければなりません。この事務負担が重いことから、経済界は早々と懸念の声をあげていました。そこで財務省はこうした企業の懸念を払しょくしつつ、軽減税率を導入するよりも税収減が少なくて済み、マイナンバーの普及にもつながるという、一石二鳥とも三鳥とも言える制度を提案したわけです。


 しかし、この案は消費者への配慮が欠けていました。コンビニやスーパー、レストランでレジ待ちする客や、ITやカードの扱いが苦手なお年寄りの立場になれば、この案がいかに実現困難であるかは、想像がつくはずです。例えば、せっかちな性格の私がレジ待ちで列に並んだとします。前の客が、マイナンバーカードを財布から取り出し、次にポイントカードを出し、最後にクレジットカードで決済しようとしたら、買い物を止めたくなってしまいます。皮肉を込めて言えば、この案を提唱した政治家や官僚は、よほど普段の買い物を配偶者や部下任せにしているのではないかと勘繰ってしまいます。


 もちろん経済界の意見を聞くことは大事ですが、企業としての合理性が優先される点は、一定程度割り引いて考えるべきでしょう。供給者の論理で押し切ろうとしても、現代はネット社会。国民の不満はすぐさま大きなうねりとなって、政策を撤回に追い込みます。ビジネスの世界では、B to Bを成功させるには、B to B to C、つまりその先の消費者を満足させることが成功の秘訣だとよく言います。政策立案にもB to B to Cの視点がもっと必要ではないでしょうか。

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