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ニュース報道の心

2015年10月2日(金)政治家に期待するもの 豊嶋広

 来年11月の大統領選挙へ向けて、米国の政治のニュースが増えてきました。9月22日の放送で、共和党の有力候補と言われたスコット・ウォーカー氏(ウィスコンシン州知事)が撤退を決めた、という一件を取り上げました。


 不動産王のドナルド・トランプ氏、ヒューレット・パッカード(HP)の元経営トップであるカーリー・フィオリーナ氏、元神経外科医のベン・カーソン氏。共和党の候補者指名争いで上位を走るのは政治家ではない3氏です。47歳の若さで、一時は支持率トップに立ったウォーカー氏が本選まで1年以上前に撤退する、という事態は、色んな意味で今の米国の政治を象徴していると感じました。長期の戦いを支えるための巨額の資金集めが厳しくなった、副大統領候補に戦略を変更した、など様々な報道がされています。


 ウォーカー氏が政治家として名前を上げたのは「筋金入りの財政緊縮派」。すなわち小さな政府を志向しており、共和党の中でも保守派の「ティーパーティー」(茶会)の支持を受けています。気になったのはウォーカー氏の撤退が2010年の中間選挙、12年の大統領選で猛威を振るった「茶会旋風」の陰りを示しているのではないか、という点です。「End the Fed~連邦準備銀行を廃止せよ」。前回の大統領選ではこの書籍の著者、ロン・ポール氏が共和党の大統領候補指名を最後まで争ったのと、だいぶ様相が違います。


 10年春、フィラデルフィア市内で催された保守派の集会に出くわしたことがあります。オバマ大統領の健康保険改革への反対がテーマでしたが、白人中心の実に整然とした集まりでした。「オバマケア」は日本の国民皆保険とかなり遠い制度ですが、「自分の身は自分で守る」という米国の伝統的価値観の揺らぎへの抵抗だったのだと思います。


 08年11月、オバマ氏が大統領に当選したころの熱気は消えました。それに対抗する政治的な動きも勢いを失ったかのようです。共和党の候補者選びに浮かぶ「非政治家の台頭」は、政治家に対する期待の後退を映しているのではないか。共和党のジョン・ベイナー下院議長は9月25日、辞任を表明しました。ベイナー氏に対し「好ましい22%、好ましくない51%」という世論調査の結果を出しているピュー・リサーチセンターは、14年に上下両院を共和党が制した後、急速に失望が広がった中での「直近の犠牲者」と同氏を評価しています。


 民主党も、指名確実と言われているヒラリー・クリントン元国務長官が少し、焦っているようです。急に打ち出した薬代規制案は、バイオベンチャーや医薬品企業の株価急落を招きました。9月26日は「CEOのトップクラスは典型的な米国人の300倍の収入を得ている」とツイッターに書き込んでいます。格差問題を背景に、社会主義者を自称するバーニー・サンダース上院議員に支持率で急迫されており、左派的主張はこうした状況を無視し得ないからでしょう。


 理想を掲げつつ、反対派を粘り強く説得して実行することがプロの政治家に期待されているとしたら。翻って日本を考えるに、米国で起きている反「プロ政治家」「既成政治家」の流れを、あまり他人事とも思えないこの頃です。

           (日本経済新聞社編集局キャスター長兼経済部シニア・エディター)


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