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ニュース報道の心

2015年9月4日(金)マーケットは遠きにありても思うもの 豊嶋広

 私には8月の平日に休みを取ると、何か起きるというジンクスがあるようです。
2005年8月8日は「郵政解散」を受けた小泉元首相の記者会見、06年8月14日は首都圏
に広域停電を引き起こしたクレーン船の送電線切断事故。いずれも自宅のテレビで見
た記憶があります。今年は標高1800メートルの高地に逃げたつもりでしたが、スマホ
が4Gでつながる時代。中国発の世界的株価急落、8月21日の日経平均株価597円安も
しっかりインターネットで確認できました。


 中国を震源地としたグローバルな市場動揺が続き、「日経プラス10」でも様々な角
度からこの問題を取り上げています。リーマン・ショックを複雑な金融商品の拡散を
通じて危機が広がった「金融連鎖」と位置づけるとすれば、今回の混乱は貿易の縮小
などを通じてグローバルに景気減速懸念が広がる「現物連鎖」と言って良いかと思い
ます。


 8月17日に日本の4~6月期国内総生産(GDP)が発表されたのをとらえて、同日夜の
放送で各国・地域の景気の現状を矢印で描いた図を用意しました。改善を示す上向き
の矢印は米国だけで、中国と貿易でつながりの深いアジア、中国が最大の「お得意さ
ん」である資源国は押し並べて悪化を示す下向きの矢印になりました。震源地の中国
が「横ばい」だったのは謎なのですが。


 中国の金融資本市場の自由化は道半ばです。そもそも世界の投資家が中国の金融商
品を自由に売買できる環境は整っていません。リーマンのとき、金融商品の損失が様
々なルートを通じて国境を越えたのと比べると、金融を通じた波及は限定的といえま
す。


 それでも株安が広がったのはなぜか。グローバルな金融緩和相場が長期化するにつ
れ、居心地の悪さを感じていた投資家は増えていたようです。経済好調の米国でも、
利上げに踏み切るほどの強さには欠ける中で、ニューヨークのダウ工業株30種平均は
今年5月に最高値を更新しました。ギリシャ危機が叫ばれるなかで、ドイツの株価も
4月に最高値を付けています。中国発で「世界経済悪化」がどこまで深まっていくか
はまだ判然としませんが、少なくとも売りの引き金になったのは間違いありません。


 今年の世界景気の特徴は先進国主導で、日米欧の成長率がそろってプラスの見通し
なのは、リーマン・ショック後では2010年に次いで2回目です。日本経済が足元ふら
つき気味なのはやや気がかりですが、この構図が変わらなければ、中国発のショック
を乗り越える力はあるでしょう。ソシエテジェネラル証券の島本幸治東京支店長は
「海外の長期投資家は日本をまだポジティブに見ている」と言っています(8月31日
放送)。


 「ふるさとは 遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの」。室生犀星の有
名な詩ですが、詩人の大岡信氏によると、この詩は犀星が故郷・金沢に帰ったときに
作ったそうです。「折角帰ったのに何でみんな冷ややかなの」。そんな思いが込めら
れているのでしょう。私が標高1800メートルから下りて出社した月曜日、8月24日は
「中国発ブラックマンデー」と呼ばれました。マーケットと毎日のように顔を合わせ
ている身としては、ふと、犀星の詩が浮かんだ今年の夏休み明けでした。

      (日本経済新聞社編集局キャスター長兼経済部シニア・エディター)


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