株主総会シーズンが終わりました。会計問題で揺れる東芝、新型株発行が焦点とな
ったトヨタ自動車など、「日経プラス10」でも関心の高いニュースを次々と取り上げ
ました。もっとも、世の中的な話題をさらったのは、株主総会に合わせて公表された
ソフトバンクの有価証券報告書。そこに記載された「165億円」という高額報酬だっ
た気がします。
孫正義社長が事実上の後継指名をしたニケシュ・アローラ氏。総会後にソフトバン
ク(現ソフトバンクグループ)副社長に就任したアローラ氏に払われた金額で、グー
グルからスカウトした際の契約金も含まれている、とみられます。孫社長は自社株か
らの配当金が100億円あるとはいえ、報酬は1億3000万円強。破格の金額に変わりはあ
りません。
人材引き抜き競争が、日本にも本格的に波及してきたことを思わせるニュースでし
た。アローラ氏はインド出身ですが、米国ではインド系の台頭が目立ちます。ペプシ
コのCEO(最高経営責任者)、インドラ・ニューイ氏は食品分野でも存在感を高め、
時価総額でコカ・コーラの8割程度まで迫ってきました。金融界ではゴールドマン・
サックス出身で、ポールソン財務長官時代に財務次官補を務めた後、西海岸の大手債
券ファンド「ピムコ」に転じたニール・カシュカリ氏。その後、2014年のカリフォル
ニア州知事選に41歳の若さで出馬したものの現職の壁に阻まれました。今回のソフト
バンクの大型スカウトは、人材のグローバル化が日本でも現実になってきた、と言え
るかもしれません。
トマ・ピケティ教授は著書「21世紀の資本」で、高額報酬を得る「スーパー経営者」
について歴史的なデータから「アングロ・サクソン的現象」と分析し、米国における
格差拡大の理由の一つに挙げています。親からの遺産相続より、実力本位の方が、将
来のある人間にとっては望ましいのでしょうが。
日本でこうした現象はまだこれから、としても、ピケティ教授に言われるまでもな
く165億円は高すぎないか、と感じた人は多いと思います。アベノミクスで日経平均株
価は2倍以上になり、高額消費は好調が続いているものの、各メディアの世論調査を
見る限り、「景気回復」を実感する人が多くないのも事実です。色々な成功体験が出
てきたとはいえ、まだ、広がりを欠いているという段階なのでしょう。
個別の生活の場面においては、どのように感じている人が多いのでしょうか。ある
日銀出身のエコノミストと話をしていたら、「物価上昇の影響が効いてきたのでは」
という仮説を提示していました。「消費者物価上昇率はゼロ%近傍」というのが全体
の姿ですが、スーパーで売られているような身の回り品で構成する日経・東大日次物
価指数をみると、6月末の時点で前年比0.7%程度まで上昇してきました。「長かった
デフレで物価が上がることに日本人は慣れていない」。かのエコノミスト氏の発言で
すが、人間にたとえれば子供が感じる成長痛のようなもので、普通の経済状態に戻る
には辛抱の時期と言えるのでしょう。それでリスクを怖がっていては、なかなか前に
は進めません。
できるだけ生活実感とかけ離れないように。ニュースの選択や解説にもそんな気持
ちが一段と欠かせない時期のように感じます。
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