私は6月2日と3日、フランスのパリで開催された「OECDフォーラム2015」に行きま
した。OECD=経済協力開発機構という組織がどういう機関なのか。ニュースでよく耳
にはしますが、機構そのものの果たしている役割とは何か。改めて考えることで新た
な発見が2点ありました。
1つ目は、先進国を含めた34か国の加盟国がOECDによる政策提案を頼りにしてい
る、という点です。あらゆるデータを収集するOECDの分析をもとに世界中の国家の政
策や法整備などが考案されています。実際、OECDは各国の政策当局者が集まって政策
を議論する場所。政策について内容の濃い議論をすることで、政策そのものの質を高
められます。
2つ目は、毎年のOECD年次総会に掲げられるテーマには必ず見えない副題があると
いう点。今年のテーマは「未来への投資」でした。OECDグリア事務総長を支える4人
の事務次長のお一人に日本人がいます。玉木林太郎(たまき・りんたろう)事務次長
です。
「COP21が今年12月にあり、日本の場合はエネルギーのベストミックスの話と、温
暖化ガスを2030年までに13年比で26%削減する目標案で議論が止まっています。今ま
で作ってきた政策の枠組みが、石炭、石油、天然ガスといった昔ながらの化石燃料を
前提としたものです。その前提を残したままで、先の政策や投資を考えることで良い
のか。数値目標を議論しても、その実現にむけて莫大なコストを払わないと、政策や
約束が実行できないということにはならないか。投資も併せて考えると、数多くの投
資、それも正しい投資をどう的確に履行するかがとても重要」。場合によっては今の
産業構造を根本から見直さなくてはならない、という玉木氏の言葉に目からうろこが
落ちました。
「未来への投資」がテーマに設定された背景には、世界経済の成長と生産性の低下
があったのです。GDP成長率と労働生産性のどちらも2008年の金融危機前を下回って
いるのです。また、投資も同様に2008年の水準に戻っていないのだそうです。
「何が将来に向けて正しい投資なのか、という議論が必要。議論なしに40年、50年
と使われるインフラをつくると、間違ったインフラ建設をしてしまい、間違った投資
をしてしまった結果、それが将来の政治や経済活動の足かせになってしまう」と玉木
氏。
さらに玉木氏はこう付け加えました。「私たちは直接民間の企業経営に関与するわ
けではないけれど、民間企業も個人も、政策のフレームワークの中で活動している。
政策によって、企業も個人も行動が変わる訳です」
今回、私がモデレーターを担当したセッションは「健康とイノベーション」でし
た。医療に関わる産官学の識者が一同に集い、それぞれの立場から意見を述べまし
た。IoT(インターネット・オブ・シングス)による個人の健康情報をビッグデータ
として収集・分析し、主に予防医療に役立てることに皆着目していました。
そうすることで、生活習慣病、痴ほう症、がんなどが飛躍的に減少するという共通
の認識をパネリスト皆が持ちつつも、結果をさらに強化するためには分散する個人健
康情報の収集・分析に官民あげて投資をし、統合することが重要との結論にいたりま
した。その結果、予防のみならず治療薬の開発にも寄与するとのことでした。
国レベルの正しい投資の方向性。今一度、日本も考えてみる必要がある、といえそ
うです。それが日本の国民一人ひとりの生活や勤める企業の将来を決めるのですか
ら、他人事ではありません。
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