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ニュース報道の心

2015年5月15日(金)二輪だけでは描けぬ「ヤマハらしさ」 山川龍雄

 「今さら、四輪車に進出?」。今年2月、二輪車世界2位のヤマハ発動機が四輪車事
業に参入するというニュースが新聞を賑わしました。その際、私が抱いた率直な感想
です。というのも、ヤマハ発は四輪車用エンジンの開発で1964年からトヨタ自動車と
協力関係にあり、エンジンの製造技術を持っています。四輪車に参入するなら、以前
からできたはずなのに、今になってなぜ進出するのか、と不思議に感じたからです。
ライバルのホンダが二輪車から四輪車へ進出したのは1963年。もう半世紀が経ってい
ます。


 ただ、5月13日水曜日のゲストとして登場した、ヤマハ発の社長、柳弘之さんの話
を聞いて、疑問は解消しました。「既存市場で大手と競争することは考えていませ
ん」。計画では、ヤマハ発は2019年をめどに、まず欧州で2人乗りの小型車を生産・
販売します。狭い路地が多い欧州では、超小型モビリティの導入が進みつつありま
す。都市への人口集中、高齢化などを踏まえ、「新しい市場の可能性を感じたからこ
そ、参入を考えた」と言います。つまり、柳さんの思いとしては、「単に国内9社目
の乗用車メーカーになろうとしているのではない」ということでしょう。


 「目指すのは個性ある多様性。新市場を切り開いていこう」。柳さんは2010年3月
の就任以来、社内にこう発破をかけてきました。ヤマハ発はもともと、女性向けス
クーターや電動アシスト自転車など独自商品を生み出すDNAを持っています。ただ、
「尖ったものを生み出す」エネルギーが徐々に薄まっているのではないか。柳さんは
そんな危機感を抱いていたようです。


 そこで就任早々、各部署からエース級の若手社員13人を集めます。彼らは通常業務
から離れ、「新しいパーソナルモビリティを考えよ」という特命を受け、世界中に散
りました。そこから誕生したのが、昨年、日欧アジアで発売された三輪バイク
「TRICITY(トリシティ)」です。前に2つ、後ろに1つの車輪という奇抜な構造で
すが、走行安定性が高く、若者や女性に購買層を広げることを狙っています。


 「選択と集中の逆をゆく」。柳さんは自らの経営方針をこう表現します。たしかに
ヤマハ発の場合、手掛ける事業領域は、二輪車のほかに、ボートや船外機、産業用無
人ヘリコプター、プールなど、多岐に渡ります。そして三輪バイクを投入し、今度は
四輪車への挑戦を掲げています。事業分野を明確にし、経営資源を集中投下するの
が、現在の定石だとすれば、時代に逆行しているようにも見えます。事業の多角化
は、収益が低下すれば、放漫経営のそしりを受けかねません。しかし、同社は今のと
ころ高収益を維持しています。自己資本利益率(ROE)は16%超で、トヨタ
(約14%)、ホンダ(約8%)をしのいでいるのです。


 シニア世代にとって、ヤマハ発と言えば、1970年代後半から80年代初頭にかけて、
ホンダと猛烈な販売競争を演じた、いわゆるHY戦争を思い出す人が多いのではないで
しょうか。値引き競争がエスカレートし、最終的には泥沼化しました。その二輪車市
場において、ヤマハ発は現在、世界販売台数で約3倍と、ホンダに大きく水を開けら
れています。番組では、「この差は悔しくないですか」とあえて、意地悪な質問もし
ました。これに対する柳さんの回答はこうでした。「もう数の戦いはしません。それ
よりも当社らしいブランドをいかに作っていくか。そこを大事にしていきたい」。


 数よりも個性を追いかけた方が「尖ったブランド」として見られ、結果として、収
益性も高まっていく。それが激烈な消耗戦を経てヤマハ発がたどり着いた境地であ
り、現在の好調を支えている理由でもあると感じました。


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