2月11日水曜日のゲストは、アソビシステムの中川悠介(なかがわ・ゆうすけ)社長。アーティスト、きゃりーぱみゅぱみゅの生みの親として知られ、「カワイイ」でくくられる日本独自のポップカルチャーを世界に発信していく事業を手掛けています。またクールジャパン戦略推進会議の有識者にも選ばれており、政府の政策にも提言しています。番組で中川さんの話を聞いているうちに、クールジャパンの推進には、いくつかの「NG」があることに気づきました。
1つめは、言語化です。日本で人気のあるコンテンツを海外に発信する場合、英語など現地の言葉に「翻訳」することを考えがちです。しかし、中川さんは「そんな必要はないのでは」と疑問を呈します。「世界中に日本のカルチャーが好きな人はたくさんいるし、日本語を覚えたい人もいます。インターネットは時間の隔たりがない。『今だ』と思ったものを、時間を置かずに、発信した方がいい」
確かに、きゃりーのミュージックビデオは、音楽自体に斬新さがあり、サビの繰り返しが多いのが特徴です。独特の映像と相まって、言語が分からなくても、外国人に伝わりやすい。だからこそ、欧米やアジアで同じ素材を同時期に発売することができたのでしょう。雑誌の編集という「言語」を生業としてきた私としては、肯定したくない気持ちもあるのですが、翻訳が必要なものよりも、五感に訴えかけるコンテンツの方が、クールジャパンの素材としては向いているのかもしれません。
2つめのNGは「作り込み」です。番組中、私が「きゃりーのミュージックビデオは作り込んである」とコメントしたところ、中川さんは「作り込むのでなく、創り出すことを重視してきた」と返しました。ビデオはすべて、彼女自身の好きなものやこだわりを、中川さんたちスタッフが受け止め、そこを起点に世界観を創り出しているそうです。つまり、周囲の作り手たちが用意したものにアーティストをはめ込むのではない。だからこそ、世界中の人が個性的と思える作品に仕上がっているのでしょう。
日本人はゼロから新しいものを生み出すよりも、既にあるものを改良することに長けていると言われます。しかし、オリジナリティーは既に市井の人々からたくさん生み出されているのかもしれません。成功体験に縛られた「プロ」の手が入り過ぎることによって、むしろ独自性を失う。これも重要な教訓でしょう。
3つめのNGは、データ分析です。中川さんに「クールジャパン推進の課題は」と質問したところ、真っ先に帰ってきたのは「まず動いてみること」という回答でした。「データ分析も調査も大事だけど、まず実行してみる。動けば必ず発見がある」。中川さんはそれ以上多くを語りませんでしたが、恐らく、政府が主催する会議などに参加していて、もどかしさを感じているのだと思います。
アソビシステムは昨年、「カワイイ」文化を海外に発信していく「もしもしにっぽんプロジェクト」を立ち上げ、その第一弾として、原宿に、外国人向けの施設をオープンしました。英語や中国語に対応するスタッフが常駐し、ガイドマップや無料のワイファイサービス、海外配送サービスなどを提供。外貨両替マシンや画像プリントマシンも置いています。「原宿を好きになってくれる外国人が目の前にいて、不便さを感じている。だから、何とかしようと思って作りました。彼らの話を聞けば、必ず新しい発見がある。動いては発見し、またそれを踏まえて、動き出す。それが我々の原動力になっています」。
詰まるところ、3つに共通するのはスピード感。インターネットの普及で、日本で流行ったものを時間差を置いて海外に持っていくような「タイムマシン経営」は通じにくくなっているようです。世界中の人々は、今、日本人がハマっているものを、リアルタイムで共有したい。その欲求にどう応えていくか。そこにクールジャパン成功のカギがあるように思えます。
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