経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査で上位の常連、フィンランドの教育事情を探るために、2007年頃、現地取材をしたことがあります。実はその時、面食らったのは、「日本の教育制度について教えてほしい」と同国の学校の先生たちに逆取材を受けたことでした。なぜなら、人口1億人を超える大国で唯一、OECDの調査で上位にいるのが、日本なのです。たしかにランキングの上位には、シンガポール、香港、中国の上海市、台湾など日本よりも小規模の国・地域が名を連ねています。
フィンランドの教育関係者たちは皆、大国であるほど、全体の教育水準を底上げすることが難しいことをよく知っていました。自戒を込めて言えば、日本では、ゆとり教育の失敗や、学級崩壊、一部のモラルに欠けた教師などにスポットを当てた報道が多いため、全体として、教育がダメになっているような印象を与えます。しかし、他国から見れば依然として日本の教育水準は高く、予算の削減やモンスターペアレント問題などを抱えるなかで、多くの先生たちは、踏ん張っているのです。
なぜ、こんな話をするかというと、今週火曜日、水曜日と2日続けて、教育に関わるゲストが登場し、同じような趣旨の発言をしたからです。
1月20日火曜日に登場したのは、若者の自立を支援する認定NPO法人「侍学園スクオーラ・今人」の長岡秀貴理事長でした。「日本の教育システムは世界最高峰と言っていい。本当に素晴らしいですよ」。そう断ったうえで、こう続けました。「ただ、今のシステムに適合しない子供がいるのも事実。それを公教育のせいにしているうちは、何も解決しない。学校の先生たちにはしっかりと頑張ってもらったうえで、我々は、適合できない子供たちのための環境を作ろうと決意したのです」。
一方、1月21日水曜日に登場したのは内田洋行の大久保昇社長。同社はオフィス家具大手の中で、教育環境の整備に注力していることで知られます。大久保さんは入社以来、その教育畑一筋。しかも、教員資格まで保有し、暇さえあれば、出張で訪れた国の学校を訪問するのが趣味というほど、日本の教育の課題にどっぷりと浸かってきました。
その大久保さんは番組でこう言いました。「よく、『生徒にタブレットを持たせても、先生が使いこなせないでしょう』と言われるのですが、私はそうは思いません。日本の先生たちは熱心です。環境が変われば、十分に対応します」。
大久保さんが理想とする未来の教室の風景は、江戸時代に広がった寺子屋の現代版だそうです。「寺子屋というのは、実は生徒が学んでいる内容は一人ひとり違ったのです。学力レベルが高い生徒も低い生徒もみんなが主役。それを再現したい。現在のデジタル技術を使えば、可能なのです」。
寺子屋の話を聞いて想起したのは明治維新のことでした。歴史をひもとけば、維新を陰で支えたのは、当時の日本人の学習熱の高さでした。幕末の日本人の識字率は当時、世界一といってもよいほどの高さで、多くの子どもが寺子屋や藩校で学んでいました。民衆に知恵がなければ、江戸幕府への矛盾も感じなかったでしょうし、開国後、あれほど急速に発展することもなかったでしょう。明治維新というと、何人かの幕末の志士にスポットが当たりがちですが、実はそんな土台があったからこそ、革命が起きたのです。
日本の教師の質も、子どもたちの基礎学力の高さも、誇るべき武器だと思います。教育の現状をあまりネガティブに捉えず、その土台の上に、何を積んでいくのかを考えた方が、未来志向ではないでしょうか。
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