「『好き』は天から与えられるものではありません。一生懸命やっていると、ご褒美として、好きになれるのです」
新年最初の週のトークプラスは、「働く~私の視点」と題して、通しテーマでお送りしています。1月5日月曜日は京セラ名誉会長の稲盛和夫さんと、人間国宝の染織家・志村ふくみさんに、小谷真生子さんがインタビューをしてきました。そして、志村さんが語った冒頭のコメントに、私は感銘を受けました。普通は「好きな仕事だからこそ、一生懸命になれる」と考えます。しかし、志村さんは順番が逆だと言うのです。一生懸命やった先に、いつしか「好き」が舞い降りてくる。この考え方が大事だと言うのです。
一方、稲盛さんで印象に残ったのは、「小善は大悪に似たり、大善は非情に似たり」という言葉でした。親は子どもに、上司は部下に、愛情をもって接する必要がありますが、その愛情は、決して溺愛であってはならないという戒めだそうです。短絡的に良かれと思って優しくすることが、本当にいいことなのかどうか。それは小さい善に見えて、大悪ではないか。長い目で見れば、厳しく接する方が、若者にとって大きな幸せ、すなわち大善をもたらすのではないかということでしょう。
志村さんと稲盛さんの話には共通項があると思います。人は皆、人生のどこかで一心不乱に取り組む時期がなければ、本当の幸せを掴み取ることはできないのかもしれません。実は、1月6日火曜日にゲストでお越しいただいたライフネット生命保険の会長、出口治明さんの信条は「悔いなし、遺産なし」。子供はすべてゼロからスタートすべきで、親が子供のために財産を残すのは、子供のためにはならない、お金はすべて使い切ってしまうべきだと主張しています。
そして、1月7日水曜日のゲストである吉野家ホールディングス会長の安部修仁さんも、共通する話をしました。「最近は従業員にハードワークを課すのが難しい雰囲気が広がっています。しかし、それが本当に彼らにとっていいことなのかどうか・・・」。安部さんもまた、目の前の仕事を一心不乱に取り組んだ人しか、本当の仕事の面白みは味わえないと、言いたかったのだと思います。
安部さんはもともとミュージシャン志望でした。たまたま生活の糧としてバイト先に選んだのが、吉野家だったのです。ところが、いつの間にか、この仕事が本業に変わっていきます。アルバイト、店長、スーパーバイザーと出世の階段を駆け上がるうちに、牛丼経営の奥深さを知り、この世界にどっぷりと浸かることになりました。まさに志村ふくみさんの言う「一生懸命やっていると、ご褒美として、好きになれる」人生。それが安部さんの場合、牛丼だったわけです。
最近、日本社会では、ハードワークを頭ごなしに否定するような風潮が広がりつつあります。しかし、本来は自分の成長につながるようなハードワークを課す企業と、従業員を劣悪な環境で働かせ、使い捨てにするような企業は、分けて考えなければならないはずです。しかし、現実はこの区別をつけるのは非常に難しい。また、人によって感じ方も違うでしょう。その結果、多くの企業が従業員との距離の取り方に悩んでいるように感じます。
親と子、上司と部下。育てる側と育てられる側の関係が希薄になり、「愛情を持って鍛える」という域に達していない、その結果、多くの人が働くことで得られる本当の喜びを味わえずにいるのではないか。今週、登場したゲストの皆さんは、共通してこの点に危機感を抱いているように感じました。
記事は日経プラス10クラブ会員向けのメールマガジンで毎週金曜日に配信しています
詳しくはこちら⇒http://www.bs-j.co.jp/plus10/club/