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ニュース報道の心

2014年12月12日(金)パイロット出身のリーダーシップ 山川龍雄

 「『ここは社長(当時の大西賢社長、現在は会長)に決めてもらおう。その代わり、決まったらノーサイド。全社一丸となって収益最大化を目指そう』。そう言って、あの時は決断したのですよ」。12月10日水曜日のゲストは日本航空の植木義晴社長。番組で述懐したこのコメントで、日航がなぜ再生できたのか、そして、京セラ創業者の稲盛和夫さんが、なぜ植木さんを社長に抜擢したのかが、少し分かったような気がしました。


 時は2010年。会社更生手続きに入っている最中に、日航社内では、3年後に納入される最新鋭機ボーイング787のレイアウトを巡って、幹部の意見が真っ二つに割れていました。もともと日航がロンドン線などで導入していたボーイングの機体は座席数が272席。それを新機体では40席減らして、232席にしようという案が浮上していたのです。顧客満足度を引き上げるために、エコノミークラスの座席のピッチを広げようと考えたからです。


 しかし、植木さんによれば、営業など収支責任を持つ部門は「売りたくても席がないのでは困る」と猛反対。これに対して、残りの幹部は「世界最高水準の航空会社を目指すなら、他社と同じことをやっても仕方がない」と主張していました。結果として大西社長は後者を選びます。「当時は破綻のど真ん中で、新しい機体が導入される3年後に、会社が存続しているかも分かりませんでした。そんな中で、私たちはこの機体に夢を込めたのです」。


 3年後、この決断が正しかったことが証明されます。2013年から導入した新機体は、顧客の評判が良く、稼働率が上昇。客単価も上がって、1機当たりの収入が増えたそうです。日航はこうした結果も踏まえ、今年からは国内線でも座席のピッチを広げようとしています。


 植木さんが番組で強調した「量より質の経営」を象徴するようなエピソードだと思います。破綻で社内に不安が広がるなか、「最新鋭の機体を発注する」ことで、社員に勇気を与え、「シェアを追うよりも、満足度向上に注力する」という明確な方針を、徹底させたわけです。トークの冒頭で、日航の現状を聞かれた植木さんはこう答えました。「当社には優秀な人材はいましたが、ベクトルが合わず、バラバラでした。今は全く別の会社に生まれ変わったのです。夢に向かって走れるようになりました」。


 もう1つ注目したいのは、「いったん決めたら、ノーサイド」と言って、植木さんが議論をまとめたことです。多くの人に経験があると思いますが、日本企業の会議というものはどこか「責任をシェアする」「うまくいかなかった時のための保険をかけて、発言しておく」ことが、目的化しているところがあります。意見が分かれた時、議決の仕方を間違えると、反対していた人たちがそのまま抵抗勢力なってしまいます。植木さんは当時、そんな空気を感じ取ったのかもしれません。だから、「ノーサイド」発言をしたのでしょう。


 パイロット出身でマネジメントの経験が乏しい植木さんを、稲盛さんはなぜ、トップに据えたのか。あくまでも私見ですが、こうした普段の行動を見ていて、マネジメントの実績よりも、人柄や潜在的なリーダーシップを重視したのではないでしょうか。


 公的資金を注入してまで日航を救済したことについては、批判の声が少なくありません。業界の競争状態を歪めたという声も根強くあります。こうした批判を封印できるかどうかは、詰まるところ、今後の日航次第でしょう。これからどうやって「量」ではなく「質」を磨いていくのか、全日空との違いを際立たせていくのか。パイロット出身の植木さんの日航操縦術に注目していきたいと思います。


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