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2016年7月15日(金)カギを握るのはドゥテルテ大統領? 阿部奈美

 南シナ海問題を巡る初めての国際的な司法判断が今週12日、下されました。仲裁裁
判所は南シナ海のほぼ全域に管轄権があるとする中国側の主張を退け、提訴していた
フィリピン側の主張を認めました。


 中国は翌13日、「南シナ海の島々は中国固有の領土だ」とする白書を発表。劉振民
外務次官は記者会見で「判決は拘束力がなく無効」と強く反発するとともに、フィリ
ピンに判決を棚上げし対話に応じるよう求めました。


 この問題で皆が最も注目しているのは、フィリピンが今後、中国の出方次第でスタ
ンスをどう変えてくるかでしょう。国内の雇用機会を増やし成長するために製造業の
育成に力を入れている今のフィリピンにとって、中国の投資マネーは魅力的なはず。
しかも提訴したのは3年前で、アメリカや日本との関係を重視していたアキノ大統領
の時でしたから。


ドゥテルテ大統領は就任時に「領有権は譲れない」としながらも、「中国が経済支
援を行えば領有権争いを棚上げする」といった姿勢も示しています。もし、判決棚上
げと引き換えに中国から巨額な経済支援を引き出せるとなったら、ドゥテルテ大統領
は応じるのか。そんなことになったら、「今回の仲裁裁判は何だったの?」「これか
らの国際秩序はどうなるの?」ということになってしまいますよね。


 12日の番組でも申し上げましたが、国際司法の判断が今回示されたことで、南シナ
海問題はもはやアジア太平洋だけの問題ではなく、国際秩序や法の支配をどう保つか
という世界的な統治問題になったと思っています。


 中国がこのまま司法判断を無視することを許したら、中東やアフリカなどでも同じ
ように振る舞う国が増えかねません。ウクライナ・クリミアを併合し強硬な行動を続
けるロシアのプーチン政権を勢いづかせることになるかもしれません。そんな懸念か
ら、5月の伊勢志摩サミットでも南シナ海問題については激論になったそうです。対
中ビジネスを重視する欧州などの一部からは慎重論が出て中国の名指しは避けました
が、首脳宣言で中国を事実上けん制しました。


 今回の判決には罰則はありませんが、受け入れを拒否すれば、国際社会での立場や
外交関係に影響が出ると指摘されています。中国としては、秋にはG20サミットを主
催するわけで、こうした主要な国際会議の場などで非難されることは避けたいという
気持ちはあると思います。


習近平国家主席は領有権を争っている関係国の出方、この地域への関与を強めてい
るアメリカなどの動き、そして何よりも国内世論の動向を見ながら、さらなる一手を
探っていくと思います。カギを握るドゥテルテ大統領がどう出るのか、目が離せない
ですね。

         (日本経済新聞 編集局キャスター長 阿部奈美)


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