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Bunjin東京グルメ

第14回 『新宿中村屋』
~美術・文学の志士が集った楽土~(後編)~

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2014.03.19

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口碑に残る歴史の味は、今なお、新宿中村屋レストランで楽しめる。相馬夫妻は改良を重ね日本人の舌にマッチする味を追求してきたという。例えば、カリーのごはんには、カリーとよく合う“白目米”を使用。戦前には途絶えるが、近年になって復活させることに成功した“白目米”は、カリーソースが均等に浸み透り、舌の上で抜群の相性を発揮する。新米の時期よりも少しねかせて水分を飛ばすと旨みが増すため、2月~3月中旬と食す機会が限られているが(栽培方法が難しく、一時期は絶滅種でもあった貴重な米だけに、生産量も限定されている)、ぜひとも食べておきたい“こだわり”だ。

中村屋の歴史を紐解いても、大正4年以降、光太郎が姿を現したかは定かではないため、彼が相馬夫妻の味を口にしたかは分からない。しかし、岩手の山奥で老境を過ごした7年を除けば、光太郎は東京に居続けている。智恵子の狂死、敗戦を経てたどり着いた人生の最果てに、今一度、最初の輝かしい冬の時代を過ごした新宿を噛み締めにくることだってあったかもしれない。晩年の作品、十和田湖『乙女の像』のモチーフは智恵子である。光太郎は帰京し、アトリエを借り、魂を削っていく。

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そろそろ春がやってくる。冬の最後。句点としてボルシチを頼んだ。
「冬だ、冬だ、何処もかも冬だ
見渡すかぎり冬だ その中を僕はゆく たった一人で――」(『冬の詩』)
高村光太郎、青春の場所。一度、訪れてみてはいかがだろうか。

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