日経おとなのOFF
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「古
い話である。僕は偶然それが明治十三年の出来事だと云うことを記憶している。」(『雁』)
『雁』は、1915年(大正4年)、鷗外53歳のときに刊行された中編小説である。雑誌『スバル』にて、1911年から2年間に渡り連載されていたわけだから、およそ31年前の話をモチーフにした物語となる。鷗外22歳、ドイツ留学を仰せつけられ出帆する年である。
医学生・岡田が、高利貸し・末造の妾であるお玉に恋心を抱く。互いに惹かれあうも、その恋は叶うことなく、岡田はドイツへと留学してしまう。無縁坂を舞台とした悲恋の物語は、岡田の友人である"僕"を視点とした三人称で綴られていく。
"僕"が鴎外であり、岡田も鷗外であり、また末造も鷗外であることは、想像に難しくない。幾つもの鷗外像が投映された『雁』は、安直な告白文学を嫌った鷗外が、丁寧に自身をひも解いていく繊細さに溢れている。"岡田"はエリート・超人としての鷗外、"末造"は家庭内で苦心する一般人としての鷗外、"僕"は文字通り、自身を客観視した鷗外。





