「当
地の風物、孟宗は黄に梅花は白く既に春意を帯び居り候へども病人の目には憂鬱に相見え・・・」(『芥川龍之介全集 第二十巻』)
1926年、療養で訪れた湯河原から谷口氏へ宛てた書簡には、一年後に起こる悲劇の予兆が垣間見える。お菓子への謝意を表しながらも、その文面はどこか重く冷たい。下戸であった芥川は、甘いものを食べることで精神の安定を図っていたのだろう。西洋文学へのあこがれ、志賀直哉への嫉妬、枯渇していく才能、自身の生い立ち・・・ぼんやりした不安が徐々に侵食していくなかでも、甘党・芥川のこだわりは随所に散見している。
