今回は豊洲市場(東京都江東区)の問題について、番組でかねて申し上げてきたことを書こうと思います。
この件、「盛り土」「汚染物質」など、安心・安全という観点で議論されています。そして、豊洲に移転するか、築地市場(中央区)を改修して使うかの二者択一の話をしています。しかし私は、安心・安全を言う前に、そもそも機能として豊洲や築地にこの先、公設市場が今の規模で必要なのかと疑問を持っています。
東京都を、築地のほか、大田区や足立区などにも、生鮮品を取り扱う物流センターを数多く保有している企業だと想定してみます。取扱量は年々減少しています。築地市場の場合、2002年には64万トンあった水産物の取引量は減少の一途をたどり、2015年には44万トンと、3割以上落ち込んでいます。卸売業者や仲卸業者の数も減少しています。他の市場もおおむね同じような傾向です。こんな状況下で、企業が築地や豊洲のような地価の高いところにある物流センターを維持しようとするでしょうか。赤字運営が目に見えているのに、さらに設備投資するでしょうか。
石原慎太郎元都知事が豊洲への移転を決めたのが2001年12月。そこから15年あまりが経過した今、生鮮品の流通は大きく変化しました。スーパーなどの大手流通業は、鮮度やコスト削減を優先して、産地と直接取引し、店舗に届ける方式に切り替えています。最近ではITを活用し、産地から直接、飲食店や個人宅に届ける流通も発達してきました。この先はますます卸や仲卸の中抜きが広がるでしょう。
東京都は先ごろ、豊洲に移転した場合、年間100億円の赤字になると試算しました。私はそれでは済まないと思っています。今回の問題で豊洲はイメージが悪化したうえに、交通渋滞は必至です。皆が豊洲を活用することを敬遠します。取扱量がさらに減少していくのは目に見えています。入居者や取扱量が減れば、赤字はもっと膨らみます。
何よりもまず、この先どの程度、卸や仲卸の機能が残るのか。厳格な試算が必要ではないでしょうか。予測してみれば、案外、大田市場の空きスペースで十分といった結果になるかもしれません。築地市場の隣接地には、飲食店や食品店が集積する場外市場があり、多くの観光客が訪れています。そうした「ショールーム」としての価値は残るでしょう。しかし、需給や品質に応じて価格を決定し、小分けして消費地に送り届けるという本来の機能については、築地である必要は感じません。どうしても築地を改修して使うのなら、大幅なダウンサイズを考えるべきです。
そもそも公設市場は、全国的に見れば、コスト負担に耐え切れず、統廃合を繰り返しています。未だに地価の高い「築地だ」「豊洲だ」と言っていられるのは、税収の潤沢な東京都だけです。
今回の件で、本当の被害者は豊洲の住民ではないでしょうか。いま、東京では住まいを聞かれて、「豊洲」と言いにくい雰囲気が生れています。マンションなどの資産価値も下落しました。豊洲市場の移転は断念し、跡地にはテニスコートなどを作って運動公園にするのはいかがでしょう。とにかく、住民に対する贖罪の意味も込めて、東京都には、現地の資産価値が向上するような策を考えてほしいものです。
日経プラス10キャスター
山川龍雄
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