高齢社会の到来を踏まえ、経済誌ではしばしばシニア向けのマーケティングについ
て特集を組みます。私も何度かこのテーマを追いかけたことがありますが、その度に
思うのが、お年寄りを一括りにした商品やサービスが実に多いことです。とにかくマ
ーケティングが大雑把なのです。
企業のマーケティング担当者が10代や20代の若者と中高年を同じに扱うことは少な
いはずです。ところが、高齢者向けとなると、60代も、70代も、80代も一括りになっ
てしまう。実際には、一口にお年寄りと言っても、資産内容、仕事の有無、健康状態、
世帯の状況などによって、消費行動は異なります。にもかかわらず、なぜ大雑把にな
ってしまうのか。
理由ははっきりしています。企業側に「高齢者を経験した人」が少ないからです。
10代や20代なら、かつて通過した世代なので、どんなことを考えているか容易に想像
がつきます。「中学生と高校生の考えていることは違う」「20代でも大学生と社会人
の生活様式は異なる」といったことが肌感覚で分かります。ところが、お年寄りにな
った経験はないので、どうしても大雑把になってしまうのです。今後は、この課題を
乗り越え、シニア向けに、緻密で痒いところに手が届くマーケティングを展開できた
ところが成長の果実を掴むでしょう。
そんなことを、11月25日水曜日のゲスト、第一生命保険の渡邉光一郎(わたなべ・
こういちろう)社長のお話をうかがいながら、考えていました。人口減少時代を迎え、
じり貧といわれてきた国内生保市場ですが、渡邉さんは前向きに捉えていました。
「10年後の2025年には、団塊の世代がすべて75歳を超えます。現在、70歳以上の人口
は約2400万人ですが、2025年には2900万人を超える。つまり、500万人も市場が拡大す
るのです」。
こう力説する渡邉さんは、着々と布石を打っています。例えば、第一生命には70歳
以上の顧客を対象とした専用のフリーダイヤルが設置されています。コミュニケーター
に直接つながり、照会に対しては、通常よりゆっくりと丁寧に応対するそうです。ま
た、シニアの気持ちを理解するために、老眼を想定したゴーグルを装着してパンフ
レットなどの説明資料を読んでみるなど、独自のサービス改善にも力を入れています。
番組で、渡邉さんはさらにこう続けました。「私たちの業界は元祖ビッグデータ。
当社には約1000万人のお客様のデータが蓄積されています。これを私たちはインシュ
アランス(保険)とテクノロジーの融合、インステックだと表現しています。このビ
ッグデータを活用して、高齢化に合わせた商品やサービスを提供していきたい」。最
近、大手銀行や証券会社がこぞって「フィンテック(ファイナンス+テクノロジー)」
に取り組み始めていますが、渡邉さんの発言はこうした動きを意識したものです。
2010年に上場を果たし、株式会社化に踏み切った第一生命。それから5年あまりが
経過し、現在では長年、王者として君臨してきた日本生命と、売上高に相当する保険
料等収入で首位の座を争うほどに、躍進を遂げました。また、保険業界では、第一生
命が先陣を切った海外M&A競争が、過熱しています。番組では、こうした拡大路線に
ついても質問を振り向けましたが、渡邉さんが力説したのは以下のことでした。
「大切なのは、『最大たるより最良たれ』という創業以来の理念を貫くこと。お客
様の視点でものを考えていくことが、成長戦略の柱です」。規模よりも経営やサービ
スの質を磨くことを大事にしていく。それが結果として、成長にもつながっていく。
そんな意味が込められています。業界内が、日生との首位争いや海外M&Aの話題で喧
しい中、それはどこか、第一生命の従業員に向けた戒めの言葉のようにも、聞こえま
した。
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