10%への消費増税先送りを争点とした、2016年夏の衆参同時ダブル選挙。その可能
性が否定できない展開となってきました。ご存じの通り、既に一度、先送りの是非を
問う解散総選挙をやったわけですから、「同じことを2度」というのは、考えたくな
いシナリオです。しかし、そうしないと、安倍政権が掲げるGDP(国内総生産)600兆
円という目標は、達成が難しいような気がします。
番組では、10月12日月曜日から3夜続けて、安倍総理が打ち出した「新三本の矢」
について検証しました。月曜日は総理の経済ブレーンである、本田悦朗(ほんだ・え
つろう)内閣官房参与をゲストにお迎えし、「第一の矢」、すなわち名目GDPを現在
のおよそ2割増にあたる600兆円に引き上げる目標について議論しました。果たして、
長らくゼロ成長が続く日本のGDPを、6年間で100兆円も上積みできるのか。本田さん
の回答はこうでした。「計算上、必要な名目GDPの年平均成長率は3.4%。これは諸外
国では普通に実現している数字。『無理』と言っている人たちは、長年続いたデフレ
マインドを払しょくできていないのではないか」。
確かに、新興国だけでなく、先進国においても、この成長率は突出したものではあ
りません。とはいえ、大胆な財政・金融政策をとりながらも、デフレマインドを払
しょくできなかったのが、これまでのアベノミクスです。世界的に資源価格が低迷し、
中国がデフレに直面するリスクを抱える中で、日本だけが思惑通りのインフレ率に近
づけるのでしょうか。
そして、何と言っても気になるのが、2017年4月に予定されている消費増税です。
8%への増税は、多くのエコノミストが予想した以上に消費の足を引っ張りました。
そう考えると、年平均3.4%の成長を、2017年の増税の荒波をくぐり抜けて実現する
のは、極めてハードルが高いと言わざるをえません。現在、軽減税率の導入が議論さ
れていますが、そもそも本当に10%への増税を断行するのか。今の議論は、本番のス
テージの幕が開くかどうか分からない中で、役者たちが、身が入らずに演技の稽古を
やっているような姿を想起させます。
600兆円の実現に向け、まず、足もとを固めなければなりません。4~6月期のGDPは
マイナス成長に転落しましたが、7~9月期もマイナスになる可能性が強まっています。
この状況をどう打開するか。私が番組で申し上げたのは、ホップ=第3弾の日銀の追加
緩和、ステップ=法人税減税の前倒し、ジャンプ=大型補正予算による経済対策、の3段
階のシナリオです。少なくとも、マーケット関係者の間では、こうした施策への期待
が高まっています。このうち経済対策については、低所得者、農業、子育て支援、国
土強靭化などを目的に、4~5兆円規模の予算が組まれるのではないかと予想していま
す。ただ、これだけの手を打っても、経済の低迷が続く場合、増税の再延期論が強ま
るでしょう。
月曜日のトークで興味深かったのは、コメンテーターとして登場した、日経新聞の
清水真人(しみず・まさと)編集委員の見立てでした。「新三本の矢という政策目標
は、経済的に見れば夢物語だとしても、政治的に見れば、半ば目標を達成しているの
ではないか。現在、安倍政権の最優先事項は参院選に勝つこと。そのためには、国民
の関心を安保から経済へ移したい。その意味では、日経プラス10が3夜連続でこのテー
マを取り上げているように、舞台転換は思惑通りに進んでいる」。
今後、経済がさらに低迷したとしても、安倍総理は、ギリギリまで消費増税の再延
期を自分の口からは、ほのめかさないでしょう。そんなことをすればひんしゅくを買
うのは目に見えています。「延期しかない」と世論が固まるまで、機が熟すのを待つ
ことになるでしょう。そんなことを考えるうちに、私が今、書いている原稿も、安倍
政権の術中にはまっているような気がしてきました。このあたりで筆を置きます。
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