シュジー・ソリドール

第一次世界大戦の戦勝に沸いた20年代、パリは開放感が最高潮に達して、狂乱の時代と呼ばれた。画家、小説家、音楽家、デザイナーなど様々なジャンルの芸術家たちが世界各地から集まり、お祭り騒ぎと熱気に酔いしれながら、既成の概念を破る新しい表現を追及していった。
そういう時代のパリで、画家たちがこぞって肖像画を描いたひとりの女性がいた。
彼女の名は「シュジー・ソリドール」。描いた画家は、藤田嗣治、レンピカ、ヴァンドンゲン、キスリング、ローランサン・・・その数は226点にのぼる。描かれた時期は、第二次世界大戦にかけての激動の半世紀に重なる。画家たちはなぜ、それほどまでに彼女を描くことにこだわったのか? 巨匠たちが見つめたシュジー・ソリドールとはどんな女性だったのか?
その生涯をたどりながら、肖像画が描かれた謎に迫る・・・。

■出演者

<パリ>

◆ ピアニスト  ジャニンヌ・ルミニャール氏
◆ 画家  ローラン・キャタネオ氏
◆ ブラスリー・フロの歴史遺産担当 ジョルジュ・ヴィオ氏
◆ シャンソン愛好家  長南博文氏
◆ 歌手  アニック・シザリュック氏
◆ 故・上永井正画伯の妻  上永井みね子氏

<カーニュ・シュル・メール>

◆ アコーディオン奏者  リリアンヌ・ロベール氏
◆ 画家  ミッシェル・ゴデ氏
◆ シュジー・ソリドールの伝記作者  マリー‐エレーヌ・カルボネル氏
◆ カーニュ・シュル・メール城美術館 館長  ヴィルジニ・ジュニアック氏 

<サン・マロ>

◆ コルセール館 ディレクター オリヴィエ・ド・ラ・リヴィエール氏

<東京>

◆ シャンソン歌手 友部裕子氏

◆ シュジー・ソリドールの声:小宮和枝(こみやかずえ)
◆ 肖像画の声:小宮和枝 他
◆ ナレーター:大岡優一郎
シュジー・ソリドール
シュジー・ソリドール

南フランス、地中海に面したカーニュ・シュル・メール、美術館となっている古城に、50枚の肖像画が展示されている部屋がある。描かれているのはたった1人の女性シュジー・ソリドール。描いたのは藤田、ヴァンドンゲン、レンピカ、ローランサン、キスリング・・・、二十世紀を代表するそうそうたる画家の名前が並ぶ。
最初の肖像画が描かれたのは1923年、彼女が23歳の時。資産家の愛人が“見せびらかす”ために画家に依頼した。愛人のイヴォンヌ・プレモン・ダレスは社交界でも有名な同性愛者だった。“変わったことが普通だった”という狂乱のパリでさえ噂になるほど、ふたりはこれ見よがしに関係を誇示した。後年の雑誌に掲載された本人の告白や伝記作家の推理、生前の彼女を知る人々を訪ねながら、シュジー・ソリドールの数奇な物語は明かされていく。
1900年、シュジー・ソリドールは二十世紀の始まりと共に生まれた。ブルターニュの荒々しい海、海賊の名門の私生児、貧困、彫刻のような端正な顔立ちと並外れた美しい肢体、男性のような低い声・・・、強烈なコンプレックスと相対するプライドは、「人に認められたい」という強い願望となる。その願望は、パリに上京後、肖像画というカタチでかなえられる。肖像画は次第に、イヴォンヌの依頼がなくても描かれるようになった。シュジーの遊び仲間で、レジオン・ド・ヌール勲章を受けて2年目の藤田嗣治は、金箔を背景に描いた。
狂乱の時代が終わる20年代末、シュジーは男性との愛をきっかけにイヴォンヌと決別し、新しい人生に踏み出す。自分のナイトクラブを開き、本格的にシャンソン歌手として活動を始めた。店の壁には肖像画が飾られ、シュジーは自分の絵に囲まれながら独特の重厚なアルトで歌い、人気を集めた。詩人ジャン・コクトーとの友情、美貌の女流画家レンピカとの親密な関係・・・。同性愛を高らかに歌うシュジー・ソリドールは、自立した女の象徴となり、肖像画は描かれ続けた。モデルになる条件はただひとつ「自分の店に飾ること」だった。
「シュジーが時代に合わせたのではなく、時代が彼女に合っていた。」と伝記作家は語る。
多くの人がパリを離れた第二次世界大戦の間も、自分の店で歌い続けた。ドイツ軍将校も来店したことから、戦後、対ナチ協力を疑われて公民権を剥奪された。数年後、カーニュ・シュル・メールに再びナイトクラブを開き、肖像画に囲まれて歌い続け、肖像画も描かれ続けた。最後の作品は1983年。生前から制作され、完成した後、静かに息を引き取った。
画家たちはなぜ彼女を描いたのか? 彼女の人生の中に、謎の答を探す。