1月25日 #13 人的資本
「新しいテクノロジーに職場を奪われてしまうかもしれない」。労働者のそんな危機感が過激な行動となって表れた事例としてよく挙げられるのが、19世紀の産業革命期に英国で起こった「ラッダイト運動」(機械打ち壊し運動)です。主に織物工業地帯で、機械の普及が失業の原因であると憤った手工業者らが各地で機械を破壊した運動です。しかし実際には機械化による生産の拡大が経済成長につながり、新たに雇用を創出するという現象が生じ、破壊運動は杞憂に終わったとされています。産業構造の変化のスピードと、労働者の職場移動のスピードの格差がそれほど大きくなかったことでソフトランディングが実現したといえるでしょう。
ところがテクノロジーの高度化やIT化が急速に進む現代は、当時と様相が異なります。日本では少子化と国内産業界の雇用吸収力の縮小がほぼ同期すれば、いずれソフトランディングは可能になるでしょうが、変化は想像以上に早く進むかもしれません。特にITリテラシーがそれほど高くない中高年の間では不安感が高まります。「雇用の流動化促進」が唱えられていますが、「果たして自分には流動性があるのか?」と身につまされる人は少なくないでしょう。今後は景気回復やサービス産業の雇用吸収力拡大などに期待をつなぐしかないのでしょうか。そうならないためにも、スムーズな流動化を促す手立てを国や企業も模索する必要があるでしょう。
今回の講師を務められた安藤至大先生は、日本経済新聞「経済教室」面の連載コラムで、雇用の流動化の意味と、その必要性などについて解説しています。
★「やさしい経済学 流動化とは 1~9」 (2013年9月18~30日)
政府も成長戦略の一環として雇用規制の見直しや働き方の多様化実現に向けて動き始めました。
★「多様な働き方推進 政労使会議」 (同年11月6日)
★「戦略特区、来春にも始動 規制緩和、追加策が焦点」(同年12月7日)
★「通常国会24日召集 雇用・農業改革が課題」(2014年1月11日)
今後はこうした潮流を背景に、国や企業が人的資本の充実をいかに図っていくのか、その具体的な取り組みを注視していきたいものです。
タイトル | 著者 | 出版社 |
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ワーク・シフト | リンダ・グラットン | プレジデント社 |
人的資本 | ゲーリー・ベッカー | 東洋経済新報社 |