アジアの風

ナビゲーターコラム

日本経済新聞 編集委員
後藤康浩

【第44回】2013年2月2日

かつて中国の北京に駐在していた時に今は世界最大の白物家電メーカーとなった中国の海爾(ハイアール)が「芋洗い洗濯機」を発売、ヒット商品になった話しをCEOの張瑞敏さんから聞いたことがあります。ある地方で販売した洗濯機に故障が頻発、その原因を探っていると農民が衣類のほかに収穫した芋の泥を落とすために洗濯機で洗っていたことが判明。平凡なメーカーなら取扱説明書に「芋を洗わないように」と注意書きして済ませるところを張CEOは泥が詰まらないように配管などを太くする設計変更を命じ、芋も洗えるようにしたところ売れ行きが伸びたという話しです。顧客ニーズをつかむことの重要性を示すエピソードとして中国ではよく語られる話ですが、今回、様々な農産物を洗う機械を開発している会社があることを知り、新鮮な驚きを感じました。旭川の機械メーカー、エフ・イーです。

同社の佐々木通彦社長をお訪ねしたのは昨年の11月でした。例年ならとっくに雪が降っているはずですが、珍しく初雪はまだでした。とはいえ、凍てつく寒さに変わりはありません。手がかじかむなかで、遠くから取り寄せた泥つき大根を装置で洗うところを拝見しました。洗浄機が動き出す前に感じたのは、これほどの寒さでなくても大根を手洗いするのは大変な重労働で、過酷な作業だろうということでした。泥つきの大根をみると表面だけでなく、細かい穴や溝のなかに泥が入り込んでおり、水洗いだけでなく、ブラシや刷毛を使った手作業で泥を掻き出す必要があるからです。農家にとって大根の洗浄機は不可欠と即座に思いました。装置が動き出すと泥だらけだった大根はあっという間にスーパーや八百屋でみかける真っ白なきれいな大根に早変わりしました。唖然とする思いでした。

高圧の水を大根の表面にあて、泥を落とすわけですが、ひとつの疑問は水圧で大根に穴が開いてしまわないかという点です。大根のもろさに比べ、吹き出す水はかなりの圧力です。穴が開かないのは大根が回転しているからです。1個所に水圧がかかれば穴が開きますがぐるぐる回転していれば、水があたっている場所が変わるため穴が開きません。ですが、どうやって大根を回転させるか。大根は円柱状の樹脂のブラシの穂先に乗って洗浄機の中を通過していきます。それが大根が回転する機構なのですが、次に固めの樹脂のブラシで大根の表面が傷つかないか、心配になりました。そこにも別の秘策がありました。ブラシにかかった水が遠心力で穂先に集まり、水の皮膜をつくり、大根の表面にブラシが直接あたらないようになっていたのです。使っている技術や部材は当たり前ですが、それらをすぐれたアイデアで組み合わせれば驚くべき装置ができあがる。日本のモノづくりの面目躍如と感じました。

エフ・イーはゴボウ、長いも、ニンジン、サツマイモ、ショウガなど様々な野菜の洗浄機に加え、カボチャのつや出し機やタマネギの選別機など多彩な農業機械を開発・販売しています。それぞれの農産物の性質を研究して適性な洗浄方法などをみつけていくのです。日本の農業は装置の面では世界で十分に競争できると直感しました。

アジアは言うまでもなく農業が主体という国が多数あります。人口増加、経済成長に伴って農産物の国内需要は各国とも伸びており、それを販売していくには洗浄、選別などは重要な工程になります。これまではそうした工程を人海戦術でこなしていましたが、工業化で農業人口が減り、少子高齢化も進んでくれば、それもできません。野菜洗浄機などの農業機械のニーズはきわめて高いのです。

エフ・イーの農業機械がアジアに広がれば、各国の農業の生産性は向上し、成長が加速します。何より多くの農民の人たちが収穫物を洗うという重労働から解放されるのは大きな意味があります。そして日本は農業機械を新たな成長産業にできるかもしれません。一層のコストダウンでエフ・イーの設備がアジアに広がることを期待しています。